「ハジメマシテ」
初めての挨拶を交わした時、彼はどこを見ているのかわからない表情をしていたのを、覚えている。
働くのなら、いずれ仕えることになるだろうと言われているアイラの傍にいる人間の中で、一番年の近い騎士だと、少し喜んでいたのに、軽く落胆したことも、覚えている。
「ねぇ、オルス」
何故かどこかほっとする真っ黒い頭に向かって声を掛けると、彼はゆっくりとレイシアへと振り返った。
「何?」
それは単にマイペースだとか、他人と関わることが苦手だとか、性格の上でのことだとわかってはいる。
生い立ちに何かがあるのかもしれないと耳に挟んだりもしていたが、それでもまだ、彼の様子には慣れられなくて。
「訓練、付き合ってくれない?」
「……なんで?」
問い返されるだなんて思っていなかったから、レイシアは言葉に詰まった。
ただ練習として打ち合う相手をしてほしかった。会話の糸口が欲しかったというのもある。
「お、オルスは……」
どもりながら、それでもどうしてだか必死になって顔を上げて、見つめた。
「強く、なりたいの?」
それは、今のレイシアを動かす一番の思いだった。
不思議なこの少年はどうなのかと、気になった。
「なりたい」
いつもと違う、やけにはっきりした口調で、やけにまっすぐな瞳で、オルスが答えた。
金色の瞳が、眩しく見えた。
レイシアは小さく震えた。
「それは、どうして……?」
震えた理由を、レイシアは知らない。それは、戸惑いと怯えか、それとも胸の高鳴りか。
オルスは、やけにゆっくりと瞬いて、小さく小さく、その目を伏せた。
「守りたいものを、守るため」
今度こそ、確かに、レイシアの胸は震えた。己の鼓動の速さに、強さに、震えが走って感じた。
――守りたいもの。
彼にもあるのだと思って、自分の思いを重ねて、嬉しくなった。
……彼の守りたいものはすでに失われてしまっているなど、知るよしもなかったから。
復讐の手段として力を得たいのだと、知れるはずがなく。
守りたいものがあった。
姉を守りたいと思っていた。誰よりも近くて大切なその人を、守りたいと。守れるのなら、他のすべてを捨ててもいいとさえ、幼い心で思って。
「そっか」
それだけしか言えなかったけれど、その瞬間から、レイシアの中でオルスという存在が変わった。
ともに戦っていきたい、仲間として――。
NOVEL