僕らは幼い頃に両親を失った。その時のことを僕は覚えていない。
――残されたのは互いの手だけだった。
レイシアの記憶はコールダリィ城内から始まっている。
双子の姉のメイファは微笑っていた。ただただ微笑を浮かべて。大丈夫だよ、と囁いていた。
「おうさま、おきさきさま、はじめまして」
泣いてばかりいたレイシアを守るように、微笑っていた。
国王や王妃、その子供たちとはこの時初めて会ったのだった。
血縁とはいえ、本当に遠い繋がりで、国王の曽祖父と二人の曽祖父のさらに母が兄妹という関係。
血の繋がりが僅かでもあれば仕事の関係で関わることも他人よりは増え、二人の両親と王家は幾らかだけの関わりはあったようで、突然連絡のつかなくなったリーヴァ夫妻を気にし使わされた使者から報告を受け、引き取ることを決めたという。
彼らは皆あたたかく、本当の家族のように接されるうちに、レイシアの涙は止まっていた。
けれど……メイファは、彼女の心は、笑っていないのだと気付く。
両親を失って辛いのは、悲しいのは、同じはずなのに。泣いている姿を見たことがなかった。
――メイは、本当は、泣いていたのに。
そんなある日、いつものちょっとした散歩から帰ってきた彼女の目が、赤く腫れていた。
何があったのか尋ねても違う話をしても、その日は一言も喋ることはなく……。けれど翌日。
「おはよう、レイ」
笑顔が、そこにあった。やっと、夢から覚めた朝を迎えた気がした。
守られてばかりは嫌だから、今度は自分が守りたいと、レイシアは周りの制止を聞くことなく騎士を目指すことにした。
ちょうどメイファが国王や家族たちの役に立ちたいと、アイラの側近となるべく、侍女として働き始めたこともあった。
最初は王子たちについて剣術を学んでいたのだけれど、自分の身ではなく大切な人を守る術を得たかった。
コールダリィでは城の敷地内に練習や試合をする為の廉技場があり、近くには王族に仕える騎士たちの宿舎もあったので、その騎士たちの中から一人選ばれレイシアの指導役とされた。――それがルークだった。
「はじめまして、レイシア=リーヴァです。宜しくお願いしますっ」
この時の彼の顔を不思議に思ったものだ。優しさと愛しさと驚き。
そしてその理由はすぐに知ることになった。
メイファを紹介した時の動揺と、ルークを見たメイファの表情と、彼らの態度でわかった。
――彼女を救ったのは彼――
僕はメイを守りたかった。
メイが好きだった。誰より何より大切だった。
この手で守りたかった。ずっと二人でいたかった。大切な彼女を、守っていたかった。
彼らを傍で見ていて、絆が強くなるのを、自分の想いの危うさを、知る。
――彼女を守れるのは自分ではないのだと、思った。
それでも……
僕は、君の傍にいるよ。
NOVEL