「成人おめでとう」
半年余り前に16歳となったアイラに加え、一ヶ月前に同じ歳となったメイファとレイシアは、今日成人の儀を終え、成人となった。
それぞれの耳に緑の石をつけている。これは成人した者の証のピアスだった。
アイラの耳には半年前から石が見られていたが、それは接着液でとめただけのものだった。
メイファとレイシアの二人と一緒に、と思っていた彼女は、他国からの客人の為に、
見せる形だけ儀式に出席していたのだ。まさかその為に成人前に婚姻を迫られるとは思わなかったが。
「いやー本当に見事だったよ」
聞き覚えのある声に、そして聞き慣れた声に、アイラたちは、ブレスは、振り向いた。
「ロイおじさま!」
「親父……」
ナンドス公爵だった。ブレスの養父でありアイラの父親の友人である、貴族らしからぬ騎士。
髪や瞳やその何よりも、独特の笑顔が印象に残る人。去ってからこそ、その印象は強い。
「お久しぶりです、アイラさま。メイファちゃん、レイシアくんもおめでとう」
「ありがとうございます、公爵さま」
「ありがとうございます」
ナンドス公はにこりと笑う。
「公爵さまはおやめ下さい、メイファさま?」
「あ、すみません、ロイおじさま」
慌てて訂正したメイファの返事にうんうんと頷き、ナンドス公は笑う。
自分も過去に繰り返し言われていたその様子に、ブレスは呆れたような視線を向けた。
「相変わらずだな、親父」
貴族の養子となったはずのブレスがこんな口調なのも、養父を親父と呼ぶのも、ナンドス公の教育の賜物だった。
全盛期は国王の騎士をしていた彼は、昔から変わった人物だったらしいのだが、
自分の領地で若い騎士たちを育てている現在、この性格は結構親しまれているようだ。
「ホント変わらないよね、公爵さま。相変わらず変」
「オルスっ!」
アイラが止めるが、言われた本人はおかしそうに嬉しそうに笑いを増す。
「はははは、お前も変わらず変だよ」
ナンドス公はオルスの頭をがしがしと撫で回した。その姿は親子のよう。
それもそのはずで、彼はオルスにとっても養父のようなものだったのだ。
天涯孤独となった少年時代に下働きとしてナンドス公爵家に入り、その後ふとしたことで剣の才を見出された。
鍛えられ、ブレスとともに腕を磨いた。ブレスがアイラに仕えるために城に入ったのについてともに入ったが、
それまでは父親代わりのようなものだったのだ。
「はじめまして、ナンドス公」
ルークの声にオルスから手を放し、親しげな笑顔を向ける。
「ああはじめまして。イレイクさんとこのご子息だね」
「父をご存知なのですか?」
「ああ……いや、お祖父さまにね。よくお世話になったものだよ」
ルークの祖父、先代イレイク家当主。年齢的なものなどから考えると、
上司と部下……のようなものなのだろうか。よく似ている、と呟いた。昔を懐かしむように。
「グラジオどのはそうでもないと聞くけれど、ミハエルどのは厳しいというか激しいというか……」
そんな人だったと、思い起こす。
普段は穏やかで優しくて、けれど一度怒りに触れると、とてもじゃないが誰も近寄ることなど出来なかった。
静かに炎を抱いた人。それがミハエルティン=イレイクの印象だった。
「そうそう、ティーナさんのことをとても大切にされていた。これがまた近寄れないほどの仲のよさで」
一目見てわかった。同じなのだと。――ミハエルとティーナ。ルークとメイファ。
「中も外も似てる。……うちの子たちを宜しく頼むよ」
「おじさまったら」
「俺たちは幾つだ」
アイラは笑い、ブレスは憮然とし。ナンドス公は笑う。
なんだか不思議なというか、オルスの言うように変わった人だなとルークは思った。悪い意味じゃなく。
「ロイおじさま、国王さまにはお会いになられたんですか?」
メイファの問いに笑う。もう笑ってばかりだ。
「会っていかれるなら早めに城へ行かないと」
「そうね、レイシアの言うとおりだわ。あれでもお父さまも多忙だもの」
「公爵さま笑ってないで」
それでも止まらない笑い声にブレスがふたをする。手の下ではもがもがとまだ続いている。
オルスがぽつり、呟く。
「酔ってる?」
酒気は感じられないのだが、普通に考えるとそうとした思えない。
深いため息がブレスの口からもれる。幾ら慣れても慣れられない。
珍しいその様子に皆つい注目するが、その一瞬に口を解放したナンドス公が言う。
「ブレス、ため息を吐くと――がもっ」
――ため息を吐くと幸福が逃げる。もしくは元気がなくなる。
そう言いたかったのだろうけれど。
再び口を塞いだ息子は思うのだ。
(誰のせいだと思ってるんだ……)
NOVEL