シーライス暦682年――
当時ヤマトは17歳、子供たちは4歳だった。
「ぼくにとって異国だったコールダリィを彷徨っていたところを助けられて、以来リーヴァ夫妻にはお世話になって」
一年か二年、ともに過ごした。
――にいさま。
人見知りを過ぎると本当の兄妹のように懐いたメイファ。
――めーだめぇ。
メイファを取られるまいと頬を膨らませたレイシア。
二人を、ヤマトを含む子供たちを優しい眼差しで見つめていた夫妻。
あたたかい、ひだまりのような記憶――
「とても、素敵な家族だった」
夫妻は様々なことをしていた。王家と血縁関係がある繋がりで城を行き来する仕事が多かったけれど、村の人々のために薬を作ったり物を教えたり、家庭菜園などもしていて。
「あの日――」
空は青く晴れていたのか、曇っていたのか、それとも雨だったのか。覚えていない。
長く長くとても短い時間が過ぎた。
昼過ぎ、夫妻の使いとして薬を届けての帰り道。女性らしき人影が倒れるのを見た。
わけがわからず、駆け寄ろうとしたら、影が、剣らしき物を振り上げるのが見えて、
「思わず裏から家へ走っていた」
倒れたのが彼らの母なら、その傍にあった影が父なら、そして二人をともに失うとしたら。
子供たちが心配で、けれど飛び込んだ瞬間全てが燃え上がって。
色のない記憶の中、あまりにも鮮やかに蘇る、赤い色彩。
必死に力を使い二人の周囲に結界を張った。炎も、人間も、なにものも彼らを害さぬように。
しかしそこで意識は途切れた。重い熱さを感じながら。
「情けない……」
ヤマトが呟く。己を悔いて。
「その者の顔は……」
「見ていない」
瓦礫となった家に埋もれ、気付いた時には子供たちは近くの家に保護されていて、夫妻は埋葬されていた。恐らくヤマトは物陰に倒れていたので気付かれずにいたのだろう。
「事故、火事で亡くなったということになっていると、聞きました」
確かに火事は火事である。斬り殺されていたとしても、全てが燃え尽きてしまったならばわからない。
そのために火をつけたのか何なのかは、わからないけれど。
手がかりは遠目に見た影だけ。突然の発火、魔導の力を持っているのではと思うのだが。
「その後、二人の安全を確かめてからその男の行方を追った。けれど」
――見つからなくて。
以来ずっと、メイファ、レイシアの二人を見守って生きていた。
彼らが幸せでいてくれるのならばと自らの姿は見せず、覚えていないならば現れぬと決めて。
――もう、失いたくはない。
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