――足音が響く。
緊張した息遣い、湿った空気、どこかかび臭い匂い。
目の前に現れた古びたドアを叩き押し開けると苦しそうに軋んだ。
中は意外と広いようで、明るくもある。先ほどまで灯りを持たねばならない場所を通ってきたからというのもありそうだが。
「はじめまして、みなさん」
出迎えたのはヤマト=カムイ。――長い黒髪に黒い瞳、極東の者そのもの。
メイファと再会した時は魔導の力で色を変えていたのだという。自分だと知られぬようにと。
同じ魔導使いだからか過去親しくしていた記憶からか、結局は見破られ気付かれ今に至るのだが。
「あなたがメイファとレイシアのお兄さま、ヤマトさんなのですね」
「はい、アイラさま。ヤマトとお呼び捨て下さい」
穏やかな微笑み、優しげな眼差し。頭からは信じはしないと決めてきたアイラだったけれど、話を聞き真実を見極めねばとの気持ちが強まる。
「この奥に広い部屋がありますのでそちらにどうぞ」
示されたのは元よりドアのなかったであろう入り口の開けられた壁の先。ブレスが先頭に立ち、アイラ、オルスの順に進んでいった。
――ここはヤマトの隠れ住んでいた場所。
元々は緊急時などの避難場所として作られたようなのだが、今ではこの存在すら知る者がないということで、王家に引き取られた双子を近くで見守れるようにと、城下のこの場所を無断ではあるけれど借りているらしい。
アイラたちにすぐには付いて行かなかったルークが進み出る。
「はじめまして、ヤマト=カムイさん。ルークスティン=イレイクといいます」
いつもより幾分か無表情で、どこか無機質な声。
「はじめまして。メイとレイがお世話になっています」
「いえ、それはこちらの方ですが……。二人の保護者的な方と思っていいんですね?」
「まあ……二人が嫌でなければ」
答えるヤマトに、ルークは整った唇に笑みを浮かべる。
「今回のこと、真実がはっきりして解決したら……彼女には今まで以上に傍にいてもらいたいと思っています」
その言葉にヤマトは驚きの表情を見せたものの、すぐに笑み返した。
「ルー……!?」
驚き頬を染めるメイファにルークは微笑み、手を取って部屋を進んでいった。
ヤマトはくすりと笑うけれど、立ち尽くしているかのようなレイシアに気付き名を呼んだ。
はっとし数歩近寄ったけれど、戸惑う表情でためらっている。無理もない。メイファと違いレイシアにはおぼろげな記憶すらもないのだから。
「え、と……」
「変わっていないね、レイ。変わらず真っ直ぐに育ってくれたんだね」
メイファを見つめる瞳が、あの頃と同じ。愛おしそうに、優しい色で……
「また会えて嬉しいよ」
あたたかい声。覚えていないのに、懐かしさを感じて。
双子で、年も過去も同じで、なのにメイファは覚えていてレイシアは覚えていない。
「にい、さま……?」
悔しく、もどかしいだろうなと、ヤマトは思った。
幼いレイシアは何もかもをメイファと共有したがった。今も変わらない想いがあるようだから、思い出せない自分が苦しいだろう。
「レイには怒られてばかりだったからね。無理に思い出さなくていい」
――ヤマトに懐いたメイファ、ヤキモチを妬いたレイシア。
ヤマトは微笑みを深くした。
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