リーヴァ一家が当時住んでいた場所、目的の人物の名前がわかった。
コールダリィの西部、国境であるレイリー川にほど近い村だった。
フリッツたちの記憶を頼りに訪ねて行きもしたが、当時と今とでは村の名称や様々なものが変わっていて、けれどアレスの言葉から今回ははっきりと把握することが出来た。
すぐさまメイファとオルスが向かうこととなった。馬が駆け出すまで、安全のためメイファよりレイシアの方がとレイシアは主張していたけれど。
静かな村の中、あの時保護してくれた家は今も建っていた。ベルで出てきたのは初老の女性。年齢的に考えて、この家の母親だった人物だろう。
「どちらさまです……?」
二人は被っていたフードを下ろした。メイファの長い金髪が零れる。
「こんにちは、突然申し訳ありません」
「十年以上前になるのですが、近くに住んでいた双子の子供を覚えていらっしゃいますか?」
婦人は不審そうに眉を潜めていたが、二人の説明に懐かしむような表情へと変わっていった。
「私があの時の姉の方なのですけれど……」
「まさか……ええと確か、メイファちゃん……?」
「そうです、メイファです。おばさま」
婦人は涙さえ浮かべそうになり、中へと招き入れた。
そして彼らはそこでいろんな話を聞くことが出来た。
燃え尽きた屋敷の中、姉弟の周囲だけが何事もなかったかのようだったこと。
ともに暮らしていた少年は一家と本当の家族のようだったこと。
事件後、彼がこの家を訪れたこと。
「その頃にはもう二人はいなかったけど、メイファちゃんたちの無事を確かめに、って感じで……」
――光、が、ちらつく。
瞬きをする以上の速度で繰り返し、点滅は増して。声が。ごめんと呟く声が。聞こえて。
遠くなる。話し声も、景色も。近くなる。遠かったものが。
「メイファ」
名を呼ぶ声、伸ばされる腕、それはオルスか、それとも"彼"か。
気を失ったメイファを支え、オルスは婦人に礼を述べ外へ出た。
少女の身体を軽々と抱き上げ、仕方がないので一頭をその場に残して馬で走り出した。
徐々に日は暮れかけているためメイファのことを考えるとどこかに宿をとらねばならないのだが……
村に来るまでにも急いだけれど結構な時間が掛かっている。一晩の宿泊もした。
とにかくなるべく城に近く宿屋のある街へと走る。けれど人間一人支えながらではそう順調にいくわけもなく、バランスを取ることに疲れ休みをとりつつとなった。
「大丈夫ですか?」
何度目かの休みとして馬を止め一息ついていると、旅人のような装いをした男が声を掛けてきた。
茶色のこの辺りの男とは違う長い髪に同色の瞳。なんとなくその顔を見つめながら、オルスは首を傾げた。
「その女の子、どうされたんですか? 馬に乗っているの大変そうですけど……」
「んー……目を覚ましてからにすればよかったかなって思った」
あの時は早く戻ることだけを考えてしまったのだけれど。
そんなオルスに男は小瓶を差し出す。
「気付け薬です、もしよかったら」
数瞬ためらったオルスだが、手を貸してもらいメイファを馬上から下ろした。彼女を預け、自らは馬を引きメイファを抱えて男が腰を下ろした木へと手綱を結びつける。
男はゆっくりと薬を小さな唇へと垂らし、何事か呟くように口を動かした。
枝はほどよく日差しを遮り、夕焼けに照らされながら馬は草を食む。オルスはぼーっと空に流れる雲を眺める。
「……さま……」
「メイファ、気がついた?」
まだはっきりとはしていないように見えるものの、もう大丈夫だろうと男は言う。
「オルスさま……」
名を呼ぶその声が、確かに意識を取り戻したと知らせる。
「ん?」
「見つけました」
視線は彼女を抱きとめている男の顔に注がれたまま、手は彼の服をしっかり握り、離さず。
震え揺れる瞳に映る影、その姿。
「兄さま―――」
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