書類を抱えたメイファは司法執務室に向かって歩いていた。シルクかスフィアがいればいいのだけれど。
「メイファ」
呼ばれて振り向いたメイファは微笑んだ。
「オルスさま。どうされました?」
「司法室にお使いに行くんでしょ。ついて行けって言われて。部屋戻ったばっかなのにさ、人使い荒いよね」
軽く不満げに言うオルスに、メイファは笑みが浮かぶ。礼を述べ、再び歩き出す。
廊下には光と陰のコントラスト。
「心配していただけるのは嬉しいのですけど、私はもうなんともないのですが……」
日に日に差し込む光は温度を増している。とても気持ちのいい季節だ。
「メイファさ……」
「はい」
「オレを見た時、一瞬固まったよね」
メイファの足が、止まる。数歩先を行ったオルスが振り向く。
「最近ずっとそう。オレじゃない何かを見て怖がってるみたいな」
――黒い髪が。
「……そんな、こと、は」
視界を、思考を、染め上げる。
押し寄せる波をやり過ごし、彼の瞳を見やる。……誤魔化しはきっときかない、そんな瞳。
オルスが怖いわけでなく、その髪に何かを見るのでもなく、だけど"違う黒"なのに連想してしまう。
――その髪とは違う、漆黒の髪。
「夢、を……」
夢を見る。何度も、繰り返し。
「甘くてあたたかいのに……苦しい……」
泣くわけではない。けれど目が覚めると息苦しさを感じて。
「それは――」
静かなオルスの声は、さらりと言葉を口にする。
「極東」
……抑えても、反応してしまうのだろう。自らの胸を押さえこらえるように目を瞑った。
彼女の様子にオルスの口からは確信の呟きが続けられる。
「――に、関係あるんだ」
「オルスさま、みんなには……っ」
「ムリ」
――黙っていろだなどと、出来るはずもない。
メイファの顔が苦しげに歪む。対するオルスは表情を変えることなく、いつも通りに話を続ける。他愛ない会話のように。
「そんな状態でいられると迷惑なんだよ。メイファがそんなだとアイラさまだってルークさんやレイシアだって、調子出ないでしょ」
オルスの声には、責める響きなどなかったけれど。
「……すみません……」
「謝ることじゃないけど。その夢、はっきりさせてすっきりしよう、メイファ」
――近づいてくる気配が。
誰かが自分を呼ぶ声。誰かが誰かを呼ぶ声。
<< back
next >>
NOVEL