ペンが紙の上を滑る音が静かに響く。文字を次々と刻み込んで。
メイファは書類に目を通し、必要とあれば文章や名を記していく。
本来はアイラの仕事なのだが、メイファが代理をすることも認められている。
新たな用紙に手を伸ばした時、唐突にノックがあり、返事をすると男が扉を開いた。
「失礼致します。メイファさま、シルクさまがお呼びです」
第三王女シルクの従者のようだった。メイファは立ち上がり応じる。
「わかりました。すぐに伺います」
「はい。それでは私は先に戻りお伝えしておきます」
礼をした男はキビキビと動き去って行った。さすがシルクに仕事を任されている人物だと思わせる。
済ませたものと未だのものとをわけて片付け、鏡で少し姿を整える。
「ホーリス。もしまた書類などが増えたら、申し訳ないけれど整理しておいてもらえる?」
「はい、お任せ下さい」
扉に向かいノブに手をかけようとしたところでガチャリと開く。
「あ、メイ。ブレスさんに伝えたよ」
「ありがとう、レイ」
メイファは部屋を出て行き、入れ替わりに戻ったレイシアとホーリスが残された。
ホーリスは机上を整え、レイシアにお茶はどうかと問う。
「ありがとう、でもいいよ。みんなバタバタしてる中、俺一人そういうわけにはいかないしね」
「そうですね。みなさんはまだお戻りではないのですが、レイシアさまもまたお探しに行かれるのですか?」
「……ううん。ここで待ってる。ブレスさんが見つけてくれると思うから」
――アイラとブレスの絆を信じている。
だから大丈夫だと、皆言わなくとも思っているのだ。それが嬉しいような愛しいような気がして、ホーリスは微笑んだ。
外には冷たそうな雨。二人は雨音を聞きながら雨粒の行く先を見つめていた。
少しテンポのゆっくりなマイペースなノックがされて、騎士たちが入ってきた。
「ただいまー」
「おかえりなさいませ、オルスさま、ルークさま」
「アイラさまはまだお戻りではないんだね」
もしかしたらと、戻ってきたのだろう。でも部屋にホーリスとレイシアしかいないのは見るからに明らかで。
メイファの姿までないのは仕事なのだろうとわかるのだが。
レイシアとホーリスは互いを見遣り、先ほど話していたことを口にする。
「うん、ブレスさんが見つけてくれる」
「そうだな。あいつじゃなきゃ、きっと意味がないから」
そうは思っても、探さずにはいられない気持ちになってしまうのだが。
雨と、時計の針と、それらの音に身を任せていると、突然、扉が開かれた。
「ただいま……」
ブレスに背を押さえられるようにして立つアイラがそこにいた。
「アイラさまっ!!」
「ごめんね、心配かけて」
レイシアが手を引き、ルークの出した椅子に座らせた。そこへホーリスの入れたお茶が。
「どちらにいらっしゃっていたんですか?」
「俺の部屋だ」
「ブレスの? それじゃあ宿舎に……」
ブレス率いる騎士たちは同じ場所に暮らしている。それがあの宿舎なのだ。
近くには他の王女や王子に仕える者が住んでいる。
「あ……私たち、鍵がかかっていましたので……」
「ああ。どうしてだかアイラは合鍵を持っているんだ」
「むかーしに作ったんだもの、仕方ないでしょっ」
――二人の距離が。
戻っていることに、皆がほっと笑った。
そこにメイファも戻ってきて。
「おかえり、メイファ」
「……あ、はい」
思わずそれだけ答えたメイファは、すぐに微笑を浮かべる。紙の束を胸に抱え。
「おかえりなさい」
「ただいま。ごめんね」
仕事ばかりが、積もっていくけれど。
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