「アイラ」
間違えようもない、この声は――ブレス。
来たのだ、わかったのだ、見つけたのだ、ここにいると。
アイラはそっとドアに近づいた。
「アイラ、俺には見つけられたくなかったか……?」
いつもとはどこか違う声音に感じて、黙っていようかとも思ったのに、呟くように口を開いていた。
「……どうして」
「あの書き置きに、探すなと」
――それは、見つける見つけないの前に、探してくれるのかを信じたくて。
ドアの前に座り込み、でも、とアイラは続ける。
「でもあなたは探したのね。何故?」
声が、震えてしまわなかっただろうか。ぎゅ、と両手を結んで答えを待った。
自分でも改めて考えているのか、束の間の沈黙。
「探すべきだと思った」
――探してほしいから、探すなと書いた。
やはり彼には伝わってしまう。良くも、悪くも。
けれどブレスは今の言葉を訂正するように、息を吐く。
「いや、見つけたいと思った。俺が」
これは……そう言って欲しいと、願ったからくれる言葉なのだろうか。
――もう、いいと、思った。
零れそうな涙を堪え、微笑を形作る。
「行くの、極東へ? 行きたいなら行けばいいわ。あたしは別れの言葉なんて言わないけど」
彼は彼であって、彼の意思があるのだ。だから。
「優しい姫さまと、頼もしい仲間と、行けばいいんだわ。見送ったりなんてしないけど」
「行かない」
「――っ」
「俺はアイラを守ると誓った騎士だ」
――身も命も、捧げるように。守ると。
何があっても、どこにいても、守り抜くと。
だけど――誓いなんて。
「……取り消せるものだもの」
「俺は自分の意思で傍にいると誓った」
「気持ちなんて、何がキッカケで変わるかもしれない、そんなものよ」
いつかいなくなってしまうのなら、今ここで、自分から見送りたい。
けれどブレスは否を唱える。
「変わらない。アイラがいてこそ、俺がいる」
――ブレス。
「俺はもう、必要ないのだとしても」
弾かれたように顔を上げ、アイラは反論する。
「何よ……必要ないのはあたしでしょ!?
離れれば、あたしなんかを守らなくてもいいのよ……?」
揺れたのはアイラ。ブレスの過去に怯えた。彼を失う未来を恐れた。
見ていられなくて、彼を遠ざけた。それが……彼にはそう見えたのか。
「この手で守りたい」
言葉が、声が、しみこんでくる。――けれどよぎるのは、あの時のこと。
「……守ってくれなかったじゃない……」
賊に襲われて、怖くて、名を呼んで、助けを求めた。だけど彼は――姫、を、守って。
恐怖が、叫び出したい心が、ぎしりと音を立てた。
「アイラ、あれは」
「わかってる! 考えればわかるわよ!!」
自分には守って戦ってくれる者が他にもいる。だからこそなのだと。
けれど心は、気持ちは、胸は、痛んで止まない。
「だけど、でも、あたしはブレスに守って欲しかった……!」
ぼろぼろと零れていく。その人を求めて。
「アイラ……?」
「わからないわよ……あたしにだってわからない……」
自分が自分でなくなる。こんな感覚なんて知らない。
ただ――
「……好き、だから……」
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