「賭けを、しませんこと……?」
その言葉から、彼女は"ここ"にいた。明かりもつけず、物音を立てぬよう息をひそめて。
気になる時間の経過がわからぬよう時計には布をかぶせて見ないようにしているけれど、
窓の外の穏やかさが逆に不安を掻き立てた。
――賭け。
彼が自分を見つけ出せば彼は残る。出来なければ彼は去る。
黒の姫の提案に、何故か頷いていた。色々な考えが巡ったのはそこから。
気持ちはもちろん残ってほしい。ならば見つかりやすい場所にいればいい。
そんな安易な考えも浮かんだけれど。
彼のことを考えると、見つからない方がいいのではとも思えて。
――そしてここに隠れることを決めた。
小さな音がして、続いて扉の開けられる音。足音がひとつ、ふたつ……二人。
動いては止まって、一部屋ずつ調べているであろう物音に身を強張らせていると……
――ガチャン。
思わず息を詰める。鍵は、かけたけれど、開けようと思えば開けられるだろう。
ドア一枚隔てたところで声が交わされる。
「やはりみなさん鍵をかけられてますよね」
「うん、まあそりゃそーだよね」
ホーリスとオルスのようだ。ドア前のホーリスに歩み寄るようにオルスの声も近づいてくる。
「どうしましょうか」
「うん……。次行こうか」
「はい」
気配が離れていくことに安堵し、同時に心配を掛けていることに申し訳ないと思う。
唇だけで謝る。と、応えるような、呟き。
「ブレスさんなら、きっと見つけるよ」
――どくりと、胸が騒いだ。
「オルスさま?」
「ううん、何でも」
消えていく足音を聞いて、彼は来るだろうかと考えた。
他の皆がすでに調べた場所を、わざわざ訪れるだろうか。
――来てくれたら。
来てくれたら、彼の気持ちはどうあれ、それだけで単純に泣いてしまう気がした。
どれほど時間が経ったのだろう。短いのか、長いのか、外は気付けば雨。
肌寒さを感じ始めた頃、ドアノブの動く音ではっとする。
けれど鍵で開きはせず、また無理に開けようともせず、アイラはほっとした。
――このまま隠れ続けて心配させてやろうかと考えがよぎる。
ドアの外の人物はまだそこにいるのか、それとも立ち去ったのか、彼女が気にしだした時、その人が口を開いた。
「いるんだろう、アイラ」
<< back
next >>
NOVEL