青く澄み渡る空に薄紅の花弁が舞う。穏やかな春の午後。
そんな外の様子とは離れ、ブレスは城内を駆けずり回っていた。
『アイラさまのお姿が見えなくなって……』
数日ぶりにアイラの部屋を訪れた彼を待っていたのは、メイファの言葉と書き置きだった。
それはただ一言。誰へでもなく、彼へ宛てて。
――探さないで。
見た瞬間に駆け出していた。ルークの声が名を呼んだ気もするけれど。
探すなと言われて探さないわけがない。
彼女は常に真っ直ぐで、けれど変なところで天邪鬼なのだ。だから。
白の敷地内を探し回って走った。いつも使っている部屋も、ひと気のない広間も。
使用中の場所には当然入れなかったが、そういったところに隠れてはいないだろうと感じた。
庭や回廊も見て回るけれど、気配もなければ誰も見ていないと言う。
「ブレスさんっ!」
西側の探索に移ろうとしているとレイシアが廊下を駆けてきた。
「やっと見つけた……。ブレスさん闇雲に走ってませんか〜?」
ふううっと息を吐いて彼が取り出したのは、一枚の紙。それはあの書き置きと同じ物だった。
一行目にはメイファへ宛てることが記されている。
「アイラの……」
「メイにって置いてあった物です。ブレスさんへの物と二枚あったそうです」
レイシアの説明によると、アイラが姿を消して残っていたのはメイファとブレスへの、
手紙と呼ぶには簡潔な紙。話をする間もなく飛び出してしまったので、
アイラの代わりに雑務をこなすメイファに頼まれレイシアが探しに来たのだと。
「そこには、ブレスさんには言うなって書いてあるんですけど」
――少しの間、姿を隠します。心配しないで。
「これだけか?」
――自分と、彼と、彼女と、答えを出す為に。
「はい」
――ブレスにはただ、あの紙を渡して。何も言わないで。
この三行で、メイファには伝わるということなのか。
「メイファは何か言っていたか」
「あ……」
レイシアの表情が翳る。
「アイラさま、ずっと塞ぎ込みがちで……ブレスさんがいなくなってしまうんじゃないかって悩んでいたみたいです」
レイシアの口を通してメイファの声が伝えるかのように。アイラの様子が浮かんで見える。
「アイラさまを、見つけて差し上げて下さい」
"探すな"は"見つけろ"ということ。
彼女が幼い頃よく付き合わされたかくれんぼ。きっと今も、考え方は変わっていないから。
見つけられる。いや、見つける。
ブレスは再び歩き出した。もしやと思われる場所を、ひとつ、ひとつと探していく。
明るい声が幻に響く。ちらちらと小さな影が跳ねては消え。
――アイラ。
ずっと見てきた姿が、幻影となって彼を導くようだ。
瞳が煌めいて髪が揺れて、小さな手が招く。声が呼ぶ。
彼女の顔を曇らせていたことに胸が痛んだ。
そうして彼は、ドアの前に立った。
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