第68話 ゆらり。
 馬はためらうことなく一直線に向かってくる。
 ブレスの大剣も龍之介の刀も、すでに抜かれ賊を待ち構えている。

「ブレス……ッ!」
「ああ」

 赤毛の馬が跳ぶ。けれどこの国のものとはまるで違う刃に斬り倒され黒馬の脚を剣が打つ。
 近づくものを次々と倒すものの、数が多いことと馬上からの槍などでの攻撃を受け、 皆は木の下に取り囲まれていく。

「一体何なの……!?」
「私たちに何か御用ですか」
 アイラとメイファが問う。激しく、静かに。

 モノクロの服装を身にまとった彼らは唇を歪めて笑う。
「そうだな、用があると言えばある。そこの女、異国の貴族なんだろう」

 指し示された由梨が息をのむ。
「わたくしが狙われているのですか……!?」
「いいやー、アイラ王女でもいいんだがな。女を渡すか王女が出てくるか……」


「主たちに手は出させん」


「姫は命にかえてもお護りする……!」


 少女たちを背に守り立つ二人の言葉に、男たちは馬鹿にした笑い声を上げる。
「この人数をお前らだけで相手にしようってか。はっ、格好良いねぇ」
「貴様……」

「騎士がなんだってんだ。なら死ね」

 じわじわと距離を詰め……馬から幾人か降り立ちナイフを握る。
 大地を踏みしめるブレスの目に走る影が映った。


「あんたたちが死ねば?」


「オルス!!」
 不意に現れたオルスの攻撃に男たちが次々と倒れていく。
 左右の剣を自在に操り、外から攻める。内からもちろんブレスと龍之介が。

「ぐ、もう戻ってきやがったか……っ」
「どこで情報手に入れたか知らないけど、アイラさまたちに手出すのやめてよね」
 金色の瞳が静かに煌めく。敵には容赦しない眼だ。

 舌打ちした男は仲間を二手にわけ、王女たちを、姫を、狙う。こうなったら少女たちを皆攫ってしまえとでもいうかのように。
 睨み付けるアイラは一歩も下がることなく、メイファは隠し持っていた短剣を手にしている。

「オルス!」
「はい」
 ブレスとオルスもわかれる。龍之介の刀は鋭いが、脆い。
 争ううちにレイシアも戻り、間もなくルークも加わった。

 戦力が上がれば賊など敵であるはずもなく、一気に形勢は逆転する。

 オルスが賊の中に飛び込み戦い、レイシアがアイラとメイファの前に立つ、 龍之介は当然由梨を背に刀を振るい、ルークとブレスは襲い来る者を斬る。
 男たちは窮地を悟りあっという間に退いて行った……。













「お怪我はございませんか、姫!」
「え、ええ」
 それぞれ得物を収め息を吐いた。……桜見が台無しだ。

 壊れ散らばってしまったカップに手を伸ばしながら、ルークが口を開く。
「仕組まれていたみたいですね。我々を分散させようと」
「うん。悲鳴のとこ、何もなかったし」

「こっちも焚き火がたかれていただけで……とりあえず消してきたんですけど」
 どこから知りえたのかは謎だが、王女と異国の姫君が外へ出ることを知り、 強盗もしくは誘拐を目的とし襲ってきたようだった。言動からすると後者だったようだが。
 まあ生まれてからこういったこととは背中合わせで生きてきたのだが。


「……帰るわ」


「アイラさま、大丈夫ですか……?」
 青白い顔をして、薄く笑う。
「ええ、大丈夫。ごめんなさい、疲れたみたい」

 瞳に宿っている強い光が、今は微かにゆらり揺れて。
 様子のおかしさに戸惑いが走る。

「アイラ」
 その、低い、気遣わしげな声が、彼女の瞳に、炎を生む。


「あたし帰る……!!」












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