傷みを受けた瞳で駆けるように遠ざかるアイラの背を、何も言わず見送るブレス。
二人の間の、見える距離も見えない距離も、広がる。
「アイラさま……」
呟いたのはオルス。メイファとレイシアが名を呼んで後を追って駆けて行く。
足早にどんどん進むアイラを二人が止めたのは、幾つもの角を曲がってからだった。
赤なのか青なのか白なのか。判断出来ない顔色で壁にもたれかかる。
心配そうなその表情も目に入らない。震えるのは瞳、身体、心……
「――勝手にどこへでも行ってしまえばいいんだわ、ブレスなんて」
「ブレス」
メイファとレイシアに続きオルスが追って行き、ルークは友の名を呼ぶ。
それだけで伝わる。お前は追わなくていいのか、と。けれど彼は微かに首を振る。
「行ってくれ」
「だが……」
「来るなと言われている」
「それは昨日の……っ」
昨日の王女と姫君の対面時に出された言葉を、今日も続けると言う。
「……わかったよ」
正直、ルークはブレスを馬鹿だと思う。けれど、わからなくはない。
自分に関することで拒絶された、否定された、ようで。近づきたい、けれど近づけない。
己の気持ちだけではなく、今は二人がともにいても気まずい空気となるだけかもしれず……
軽く息を吐き、ルークは由梨に礼をとりその場を離れた。
「可愛らしい方ね、アイラさまは」
微笑して由梨はブレスの現在(いま)を少し、思った。
「他の方たちも、とてもいい方なのね」
波打つように、さざめくように。ざわめく。
ブレスにとって過去から現在、それは全て仲間たちと共にあった。記憶そのものといってもいい。
そして現在から未来もまた、そうなのだろうと思っていた。
――訳もなく、信じるように、思っていた。
突然現れた、過去。自分にとって過去よりも過去……
由梨はにこりと微笑む。
「雪彦」
固まってしまったかのような雪彦――ブレスに、彼女は幼い日々を想う。
人に囲まれながらも一人だった己と、他人と異なる容姿のために疎まれ独りだった彼と。共に在ると落ち着いた。
桜の木が多く植えられた場所で、よく城を抜け出して遊んだ。
遊んだといっても、二人並んで空を見上げたり、他愛ない話を交わしたり、紙折りなどの簡単で可愛らしいものだったけれど。
そして今考えると、家臣の子だった彼は、断ることが出来なかったのかもしれないけれど。
「雪彦、姫のお言葉に返事くらいしたらどうだ!」
ずっと口を開かず由梨の背後に控えていた龍之介が声を荒げた。
「いいのよ、タツ」
薄紅の花びらが見守っているように舞う。
ふと思いついたように、そうだ、と由梨が微笑う。
「ねぇ、お花見を皆で致しませんこと?」
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