――どうしてしまったんだろう。
ぼんやりと天井を見つめていたアイラは、どこか遠いところで思った。
自分じゃない自分がいる。
どうしてしまったのか、何がどうなのか、全くわからない。
わからないけれど、おかしい、おかしい、と思う。
自分は今どこにいる? ここに? こことは?
白い天幕が流れるように彼女に降り注いでいる。
お茶の時間は静かに過ぎていく。
いつもの一番の華がない。
「アイラさま……大丈夫かな……」
「あんなアイラさま、初めてだよね」
心配そうに呟くレイシアに、平然としたオルスの声が返る。
けれど彼だって気にならないわけではないと皆わかっている。
メイファは黙ってカップに口をつけた。……冷たすぎる味のないお茶だった。
とても、とても静か。数にしてわずか、それが足りないだけでこんなにも静かなのか。
もしかすると、自分がいないときもこんな風だったのだろうか。
「……怖い……」
「……メイファ?」
「人間の想いが怖い……」
些細なこと一つで擦れ違う心。
いつもは他の誰よりも必ずここにいるはずのアイラとブレスが、ともにいない。それぞれが別のところにいる。
その身も、その心も。
レイシアは窓の外を見上げた。徐々に陽は暖かくなってきている。
穏やかなこの景色とこの部屋の空気と、どちらかは夢なのだろうかという思いが浮かんでは消える。
そっと握ったメイファの手のぬくもりに、ルークは友の心を思う。
――何年の付き合いになるだろう。
それほど長いわけではない。けれど決して短くもなく。
彼が今何を考えているかは容易に想像出来る。口には出さないし、表にも見えないけれど。
ともに戦い命を預け合ってきた仲間なのだ。
彼ほどにアイラを想い守っている者は他にいないと、知っている。
メイファとレイシアがフリッツ、アリーア夫妻に引き取られた時、すでにアイラの傍にはブレスがいた。
幼い頃のことなのではっきりとは覚えていないけれど、彼の姿はずっとあったように思う。
最も長い間、最も近い場所に、いた。
当たり前だと思っていたことが崩れるのが、怖い、と感じた。
時間は止まることがないのだから、世界が変わっていくのは当然なのだけれど。
自分は狭い世界しか知らないのだと、メイファは思った。そして、それでも構わないと。
多くを知っているのはいいことだ。けれど自分のこの手に抱えられるのはほんのわずかで。
大切に想う人には幸せになってほしいと願った。
自分や大切な人が傷付くのなら、そんな世界は知らなくていい。
心も狭くて、いい。
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