第62話 漆黒の宝石
 第二王女タルシーは扉を叩き、了承を得て入室した。
 そこにはまだ呼ばれているはずの妹たちの姿はなく、父母と客人だけだった。
 深緑のドレスの裾を揺らし、三人の元へと歩み寄った。

「姫、お待たせして申し訳ない。これが次女のタルシーです」
 示され、タルシーは優雅にコールダリィ式の礼をとった。
「タルシー=コルトックです。差し支えなければシーとお呼び下さい」

「子供たちの中で一番似ていると言われるんですが、どう思われますか?」
「そうですね……他の方とはまだお会いしていないので比較することは出来ませんけれど、
 お二人は確かに似ていらっしゃると思いますわ。海のような瞳の色と稲穂のような
 髪の色がとても綺麗ですわね、国王さまもシーさまも」

「ありがとうございます」
 礼を述べる夫と子を微笑みで見つめる王妃アリーア。王は思い出したように続ける。
「それでタルシー。こちらの方がはるばるお越し下さった由梨姫さまだ」

「ユリ姫さま……」
 聞き慣れない響きの名に、タルシーは呟いた。由梨は「由緒ある木の実、もしくは有名な木の実」 という意味なのだと説明する。なるほどと頷き、タルシーは由梨の背後へと目を向ける。

「それで、そちらの方は……と、お聞きしても?」
 彼女の視線の先には黒髪黒眼の青年。腰に見慣れぬ剣を差している。
「あ、ええ。わたくしの護衛の龍之介といいます。――タツ」

 主に呼ばれ、彼は進み出て無言で頭を下げた。高い位置で結ばれた髪が揺れる。
「龍之介のタツとはドラゴン、龍のことなんです。こんな見かけですけれど、名前は勇ましいでしょう?」
 ふふふと笑う由梨。けれど少女のような騎士を知っているため、見た目も充分勇ましいと思える。

 ああと王が声を上げ、もう一人王女が来たことを告げる。


「遅くなってしまい申し訳ありません」
「はじめまして、レイナさま。由梨と申します」
 微笑みあう由梨とレイナ。20歳のレイナに比べて幼く見える顔立ち。けれど年下だと思うかというと、 それは判断出来なかった。容姿の違いから、自分たちの基準では計れないと思ったのだ。

「ユリさまのような髪は初めて目にするのですが、とても美しいですね」
「ありがとうございます、わたくしの国では皆が同じ色をしておりますの」
「それは……とても不思議……」
 家族だけでも様々な色合いのレイナたちにとってはとても不思議なこと。けれど逆に由梨からはこの国の色の多さが不思議だった。







 ノックをし、扉が開けられ、アイラは言った。
「遅くなってしまい大変申し訳ありません」

 部屋に入ったとはいえ広いため、遠く呼びかける。そこでは彼女についての説明を しているのだろう声が聞こえる。母に手招かれ、進んでいった。

「遅かったね、アイラ」
「ごめんなさい、シー姉さま……。申し訳ありませんでした」
 タルシーに謝り由梨に向き直って謝った。不思議な容姿の少女だった。

「いいえ。アイラさまと仰るのですね。わたくしは由梨と申します」
「はじめまして」
「そちらの方は……?」

 由梨が視線で示したのは、アイラの傍に控えた少女だった。タルシーやレイナも側近を 従えていたけれど、そちらよりメイファに興味を示したのは年齢の近い少女だったからだろうか。
 アイラは微笑ってメイファを、続けて騎士たちを紹介した。

「父から、あたしが由梨さまをご案内するよう言いつかったものですから、護衛の者も
 ご紹介しておいた方がいいかと思いまして、連れてきました」

 説明し、一人一人名前を言っていく。けれど当の由梨は聞いているのかいないのか、 視線が一方のみに集中している。近くて遠い、それでも手の届くその距離に揺れる。

 ぽつり、呟きがひとつ。


「噂は……本当でしたのね……」


 潤む瞳は漆黒の宝石。

「会いたかった……」

 映るのは、この国でも珍しい色合いの姿。
 その人を、彼だけを、異国の姫君は見つめていた。












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