第59話 おかえりとさよならを
「ルークさま……?」

 頬を色付かせ目を丸く見開いた少女が……彼女が呼ぶ、自分の名を。
 やわらかなやわらかな、優しい、愛しい、その声。

 ルークは細い体を抱き締めた。
「ルークさま……!?」
 無言で彼がそうすることにメイファは慌てた。何がなんだかもわからない。

「…………んで……」
「え……?」
「よんで……もっと名前、呼んで……」


 ――君の声でこの名を。


 愛しいその声を、聞いていたい。それが自分の名であったなら、もっと……。

 メイファはそっと、その背に腕を回した。
「ルークさま。ルークさま……」

 包み込む。穏やかな日差しのように。

「―――――……っ」














 ノックがあり、扉が開き、入ってきた少女は駆け出し、抱きついた。
 泣き笑いのアイラに微笑み返す姉の姿に、レイシアも歩み寄る。

「もう馬鹿っ! 大変だったのよ!?」
「申し訳ありません……ルークさまから聞きました」
「そうよ……っ!」

 怒る口調で言いながらも声は震えていて。存在を確かめるように触れている。
 そこに立ったルークがレイシアの名を呼び。アイラが少し離れ、メイファが微笑う。

「レイ」

 手を伸ばす。お互いに。触れる。

「メイ……」
「……大丈夫よ。泣かないで、大丈夫」

 肩に頭を寄せたレイシアの体が震える。メイファが優しく髪を撫でる。
 うん、うんと頷く。


「……おかえり……」


 そして――

 さようなら。



 幼い恋の終わりを、感じた。














「―――――諦めた、のか?」
 ブレスの呟きに、返る声はない。
 オルスはただメイファたちを見ているだけ。反応もない。


 ――庭に、動く様子も見せず立っていたオルス。


 彼を見つけたとき、彼は無言で、城壁を、その向こうを、見ていた。
 あの男はどうしたのか、とは聞いていない。振り向いた彼が、とても脆く見えたから。
 危なげで、声を掛けるのも躊躇われたほどで。

 ……こんな状態の彼を、ブレスは以前にも見たことがあった。

 それはもう何年も前で、あまり覚えてもいないのだけれど。
 城に上がってまだ間もない頃だった。仲間たちと出会う前。

 ナンドス家に仕えていた少年。自分より年下で、一緒に剣を学んだ。
 下働きの子供に何故と周りは言っていたようだったが、才を見込んだのだと当主は笑っていた。

「まあ、いいか」

 メイファは目覚めたのだし。

 みんなは、無事なのだし。

 だから今は。


 ――これで、終わったのだと思っていよう。












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