第58話 狂い穢れ
 巡り合ったのは成人するよりも昔。四年か五年か。それとも三年か六年か。

 もう時間なんて何もわからない。


 あの頃――誰より強いと思っていた己。


 あの時――死とも感じる敗北。


 戦って戦って戦って、勝ち抜いて、そうして騎士になると決めていた。
 それが、その命とも言うべき夢が、一瞬にして破れた。
 あまりにも突然で、理解することが出来なかった。












 ――この手は。この心は。

 何も感じなくなってしまったのか。あまりに穢れて。
 闇が押し寄せる。飲み込まれてしまう。腕も脚も絡め取られ。


 同化してしまう。闇に。












 狂ったように剣を振った。振り続けた。

 ――狂っていたのかもしれない。

 何もかもがどうでもよくなっていた。
 ただ、その一人を倒すことだけを目指して。

 その思いは……倒したかったのか、殺したかったのか。












 差し込む光はあたたかかった。気持ちがよかった。
 けれど、居心地の悪さも感じていた。

 細く照らすそれは、なのに眩しすぎて。目が眩む。立っていられなくなる。
 縋るように手を伸ばすと握り返してくれる手はあって。


 それは、夢。幻だ。


 この自分が何を望めるという……












 何度も何度も、不意打ちをしてでも、斬りかかり襲いかかった。
 けれど勝てなかった。
 打ち負かされ、殺す気でいったのに、生きて帰された。


 殺す気で……死ぬ気で、いたのに……


 剣の腕では勝てないのか。何をしてもいつまで経っても無理なのか。

 ――もう、騎士道なんてものはなかった。












 落ち着いていた。
 闇の中とは違う心地よさに慣れていた。

 このままいたい、このままでいられたら、と思って。
 そこに―――――あの話を聞いて。

 揺れた。全てのものが、揺れた。


 変われるはずなどないのだと、許されるものではないと、言われたようで。












 何でもしよう。何でもしてやる。何でも。何でも……!
 取り巻く全てを捨てた。この思い以外の何もかも。

 命すら惜しくないと思った。――あいつを、壊すためなら。

 ……けれど何故怯えているのだろう。
 目の前に見える刃に、冷たい瞳に、震えた。


 ああ、俺は――



 ―――あいつに殺されたかったのか……












 いくら苛立っていたからって、これじゃあ八つ当たりだ。
 こんなのはイケナイことだ。

 仲間を守るため。なんて、言い訳だ。
 捕らえることだって出来たはず。殺してしまうのは、最終手段にして。

 ――ざわりと生温い空気が髪を撫でる。

 このままじゃ、あの男と変わらなくなってしまう。


 あの、忘れたくても忘れられぬ、あの―――――――……












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