アイラが小さく、けれど強く、囁く。
「メイファ……?」
光を含んだ声だった。
レイシアが慌てて振り向いた。アイラに目で問う。
「今、動いたのよ……っ」
「メイ……!?」
ベッドに体を寄せ、顔を覗き込む。目は開かない、それでも先ほどまでの人形のような眠りではない。
二人の顔が泣き笑いに変わった。
――きっと二人が奴に術を解かせたのだ。
口内が乾いて舌打ちも出来ない。
滴る血は、魔導の力で床や壁につくことはなく、流れる。
――エーヴィは城内を走っていた。
動かない左腕、血の止まらない胸。
傷を治すどころか、出血を止めることも出来ない。
痛みに憎しみに、顔を歪める。
勝算なしと見てルークとブレスから離れたものの、血と一緒に力も流れ出てしまっているようで。
(くそっ。くそっくそっくそっくそっくそっ……っ)
痛みが止まらない。傷も、過去の傷痕も。
今はひと気のない所をと天井裏に身を潜めつつ、動ける速さで走っているが、徐々に目も眩んできたようだ。
(こうなったら……!)
何も考えず進んできたつもりだったが、気がつけばメイファの部屋の近くまで来ていた。
――こうなったらあの女だけでも……ッ。
カタン、音がした。
その瞬間。
刃は相手の首へと押し当てられた。そう……エーヴィの首に。
何が起こったのか。
エーヴィは理解出来ずにいた。ただ嫌な汗が肌を伝う。
冷たい――冷たい瞳。
こちらも事態を全て理解していたわけではない。無意識のうちに体が反応したのだ。
手負いの人間一人、動きを止めることなど容易い。
アイラの、メイファの、部屋の前を通る廊下。音はない。遠くに気配は薄く感じる。それだけ。
先程から気配は感じていた。抑えてはいたのだろうけれど。……消し切れずに。
ひとまず待ち、出てくるのを待った。気配の乱れから、頭の中はもう、
考えることを放棄し、突き進むだけになっているだろうと。――…それを、頭ではなく感覚で考え。
「―――何?」
平坦な声。感情など含まれない。
エーヴィは喉から声を絞り出す。
「おま、えは……何者、だ……っ」
「―――――――さぁ」
喉がごくりと鳴る。飲み込む唾液もないけれど。
この剣がなくとも身動きなどとれなかったろう。
――金色の視線に射られて。
静かに、刃が横に滑らされる。つ、と喉に線が走る。
「馬鹿は死ななきゃ治らない、って言うよね」
「ま……っ!」
目が見開かれる。術は解けるのだと叫ぶ。
「俺を殺してもお前が嫌な思」
黒い髪を深く染め、感情のない瞳は闇に映える。
――嫌な思いなんて、どうだと言う。
陰に同化したそれと目を合わせ、口元を歪めた。
馬鹿はコレかオレか。自分に問う。応えなどないけれど。
そういえばここは城だったなと、ぼんやり思いながら。
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