目を閉じる。耳を塞ぐ。神経を集中する。
まるで外界から隔絶されたかのようなほどに。
糸を辿るようなものだ。それはクモの糸。いつ途切れて行き先を見失うとも知れない。
それだけに意識を持っていく。他のものは今考える必要はない。
城内にあって知らぬ違和感を掴め。
――語りかけてきた声を。
どいつもこいつも……ッ!
いた。声が聞こえた。感じた。
す……と目を開く。まだ掴めている、あの気配を。
「城内にいる」
アイラが目を見張る。ブレスとルークが視線を交わし、オルスと頷きあう。
――レイシアは術を行った。
生まれながらの魔導使いでない人間が何らかの力を使うなど、それは賭けに等しい。
自らの意識に干渉してきた声を、気配を、追った。
その力は――命を削っているかもしれない。
けれど知らぬオルスが口にした策に、知るはずのレイシアが頷いた。今まだ弱った体のままだけれど。
「怒ってる」
思う通りにならない事態……いや、この存在する世界に、だろうか。
ブレスが目で合図を送る。あらかじめ伝えていた通りに、と。
ルークは眠るメイファの額にそっと口付け、ブレスとともに部屋を飛び出した。
扉をきっちりと閉めたオルスは外から部屋そのものを守るように立った。
内側にはメイファとアイラ、レイシアの三人となった。
少年は肩にかかる金の髪を一房切り、ベッドの周囲へとまく。――これを陣とする。
己の髪ならば改めて力を込める必要がないためだ。
「レイシア……」
「大丈夫。負けるもんか……っ」
――守るのだ、命をかけても。
陣はレイシアの中の力を使い、防護の結界を張る。
剣の柄に手をかけ、レイシアは神経を張り詰めた。アイラは祈る思いでメイファの手を握る。
返るぬくもりの中、僅かな力がこもった。
「ブレス!!」
ルークの声に振り返ると、友は敵と斬り結んでいるところだった。
すぐ近くにいるとわかって部屋を出た二人だが、探し出すまでもなく、こうも簡単に出てきてくれるとは。
茶の髪を乱し黒の瞳を濁らせ、色のついた歯を見せて笑うエーヴィ。
「エーヴィ=トリク」
叩き下ろされた大剣。人影をとらえられず廊下に刺さったそれを勢いで抜き、流れに任せて振った。
繰り出される剣撃を避け、エーヴィは魔導の力で高めた脚力で跳ぶ。
「一対一がお好みなんじゃ、なかったか?」
「何を言う、今更ッ」
一人の所を狙おうとしたエーヴィだったが、叶わず、二人を相手に攻退を繰り返す。
――こうも暇なく攻撃されては魔導の術を使うことも出来ない。
それは、ルークとブレスの二人もわかっていてのことだった。
剣の腕だけであるならば、二人には勝つ自信があるのだ。
……ぴっ、と赤いものが飛んだ。
構わずぶつかり合う二組だったが、痛覚がないわけではない、傷を受けた一人に少しずつではあるが傷が刻まれていく。
ルークが細かく正確な剣を繰り出し、エーヴィの左腕を貫いた。
そして一瞬深く踏み込んだブレスの大剣が胸元を赤く染めた。
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