第54話 自己嫌悪、と
「それで」


 もういっそ呆れだか何だかわからない声でアイラが言う。
 メイファの部屋は今も家具が移動した状態のまま。彼らがいるのもまたその部屋だ。
 急ぎ、窓は補修されたけれど、一歩入った人間は一様に、瞬間固まってしまう。


「あたしをのけ者にして一体どうしたって言うの」


 部屋の主が眠るベッドまわりは何事もなかったように整ったままで、 アイラはそこに椅子を持って来て座っているのだが。


 扉の前には大きな家具類が転がっているし。

 クッションはあちらこちらに落ちているし。

 書物は散らばったのをとりあえず集めたのだろう、――塊の山になっているし。

 窓は木材などでつぎはぎだし。


「……………さい……」
 小さな声に、じわりと涙ぐむ瞳。青い顔をしてレイシアはベッド脇に座り込んでいる。
(―――この子たちが泣くと、胸が痛くなる。昔から……)

 だけど。

「説明してもらえるかしら?」
 と、名指すのは。
「ねぇ、レイシア」
 ちらりと、そっと、視線が向けられる。少年は俯かぬよう顔を上げ、話し出した。

 ――ルークが悪いのだ。

 そう思ったのだと。夢をみて、現実との境がわからなくなってきて、彼と出会っているはずもない頃の 出来事も彼のせいだったのだと、忘れていた事実を思い出したかのように思って。
 どうすればいいのかわからなくなって、気付いたら爆発してしまっていた……。

「……ごめん、レイシア」
 オルスが呟くような声でそんな言葉を言うから。レイシアは瞬いた。

「オレ一緒にいたのに、様子がおかしいのわかったのに」
(自分のことでいっぱいになって、気を、回せなかった)
 どこを見ているのかわからない視線。ゆらり立つ雰囲気に冷たい物が混じる。

「オル、ス……?」
「何言ってるのよ。レイシアの心が弱っていたからよ、あなたには何の責任もないわ」
「………」


 心が弱って、そこにつけこまれた。


「――――エーヴィ……っ」

 苛立ちの凝縮された声だった。奥歯を噛み締め、ルークは自分の中に増していく自己嫌悪と戦う。
 メイファを救いたいのに、彼女のために、レイシアのために、自分のために。

 何も、出来ず。
 レイシアを追い詰めてしまった。――自分が悪いのだ。責められて当然だと。思って。

「レイシアも。ルークもよっ。オルスもブレスも、あたしも」
 メイファはきっと。
「誰も責めたりしないわ。みんながみんな、自分が悪いと思っても仕方ないんだから」

 そして。

「責任があるって言うなら、それは全員よ。本人も含めて、ね」

 わけのわからない奴に、こんなにも簡単に弄ばれてしまっているなんて。
 己を囚われたメイファ、何も出来ない皆。
 悔しいのも苛立つのも、同じだ。

 ……と、オルスが顔を上げる。

「ねぇ、レイシアのあの力って何? あれで何か出来ない?」


 ――レイシアの、力。


 メイファが魔導使いであることは、近い者なら誰もが知る事実。
 けれどレイシアもそうだというような話は、この場にいる誰も聞いたことがない。

「俺の力は、簡単に言うと……偽物、なんだ」

 身近な魔導の力に影響された結果らしい、と説明する。
 初めて耳にする話に、一同は驚きつつ、あの騒動に納得した。

 そして。


 一つの手段が提案される。












<< back    next >>

NOVEL