第53話 大嫌いな愛しさ
「イレイク!!」
「ルークさま!?」

 騎士が侍女が、叫ぶ。

 思わず身を守り閉じてしまった目を開くと、棚は収まっていた書物をばらまき、 クローゼットは扉を開いたまま倒れていた。
 その向こうに膝をついた姿。

「大丈夫か」
 ブレス、そしてルークの姿に安堵からか、誰かの息がもれる。

 膝をついたままのルークを、腕をひいて立たせ、ブレスはレイシアに向かい合う。
 レイシアは戸惑いのような表情を浮かべる。
「ブレスさん……」
「レイシア」

 一歩、踏み出す。ルークとオルスが見つめる。

「レイシア」
「……来ないで……」

 一歩、また一歩。ブレスは歩み。レイシアは後退る。
 鋭い音がし、窓の一部が割れたことを知る。重い音をたてて、家具が揺れる。

「ナンドス、悪いが――」
「いいから」
「こちらこそすみません、行って下さい」

 声をかけたブレスではなくオルスとルークに促され、騎士たちは侍女を連れて扉の外に出た。
 今のこの状態に他者を巻き込むわけにはいかない。
 ブレスはレイシアの肩を掴み、その強さに少年は顔を歪めた。


「レイシア。何かあるなら言え。そう教えたな」


 普段多く口を開くことのないブレスだけれど。
 同じ騎士として働くことになった時、彼が一番最初に言ったことだった。
 必要なことだけは必ず言うように。務めに支障をきたす可能性がある場合もまた。

 ――常のように変わらない表情。

「言いたいことは言え。そんな形で吐き出すな」
 このままだと、とオルスは思った。このままだとレイシアは解雇ということになってしまうだろう。 王家の血を含み、可愛がられているといっても、問題を起こしては。


「レイシア! 私に言いたいことがあるんだろう!」


「ルーク……」
 歩み寄りはせず、ルークは言い放つ。少年を刺激したくないと思い、けれど聞かねば、言わねばならぬと思う。
 オルスは人の気配のしだした扉に滑り寄る。
「レイシ――」

「メイが!!」
 レイシアが震えながらルークを睨んだ。
「メイファがこんなことになったのも、俺が苦しいのも、ルークさんが悪いから……っ」

 全部。何もかも。憎しみが込み上げた。静かな瞳に苛立つ。
 何故この人は。そんな目で。そんな表情で。見つめてくるのか。逸らすことなく。
 穏やかな、哀しみと優しさの見える瞳で。


「――――――――そうだな」


 緑の瞳が見開かれる。

 ――認めた。自分の言葉を。

 けれど何故か、苛立ちは募っていった。自分で望んでした行動の結果なのに。
 腹が立って、どこか……何故か無性に悲しくて、寂しくて。
 こんなにも、あんなにも、憎み恨む人なのに……。

「ルークさんなんか大嫌いだ!!」
 言葉が滑り出る。
 ……でも、何かがぷちりと変わった気が遠くして。


「メイの……メイのバカぁっ!!」


 ――バカは自分だ。

 色のついた霧が晴れていく。残るのは淡い色。


「起きてよ、早く目を覚ましてよ、メイっ!!」


 淡い淡い、薄いけれど決して消えない色。

 何があってもそれだけは確かに残る、想い。












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