第51話 警戒
「ブレスさん。レイシアの様子が変」

 突然呼び止められたブレスは、口調こそ変わらぬもののオルスの表情に少なからず不安を抱いた。 何を考えているか掴めないのはいつも通りだが、何かが違うのだ。 任務を与えられたときの真剣さとも違う。

 曖昧な漂う不安感と、抑えた高揚感。苛立ち、焦りの中に、言い表し難い感情を見つける。

「あいつが、今度はレイシアを……」
「あいつ……?」
「うん。この前、不審な気配を感じたから」

 ブレスは眉をひそめる。その訝しげな顔は、自分へのものではないとオルスは知っている。
 この日とは自分が突拍子もなく何を言っても信頼してくれる。ずっと変わらず。


 ブレスは今来た道を引き返す。無言で歩く二人の姿に、人々は知らず避けていく。
 目前の扉をノックする。程なくして返事があり、中へと入った。


「これから俺は常時アイラの傍にいる。女手が必要な時はホーリスに頼む」


 言われた当人たちは呆気にとられた顔でブレスを見返している。
 出て行ったと思えばすぐ部屋に戻ってきて、扉を開けて言い放つ。驚きも無理はないだろう。

「俺のいないときはオルスがつく。――いいな?」
「うん」

 わかり合っているのはこの二人だけ。


「説明もなしに話を進めない」


 声にブレスとオルスの二人が振り向くとルークの姿。
「ブレスの悪い癖。無口なのは構わないけど、言葉が足りないんだよ」
「ルーク……」

「あとその顔ね。いつも以上にアイラの傍にいるというのなら、もう少し緩ませなさいな。周りの者が皆怯える」
「王女……?」
 ブレスがわずか、目を見張る。ルークの後ろから表れた女性を見て。

「わたしの方からも何人か貸し出すから。大事な妹たちのためだもの」
 アイラの四番目の姉、ルビーだった。明るい金色の短めに切られた髪に緑の瞳。
 丈の長くない薄赤紫のドレスに身を包んでいる。

 ――アイラたちの身を守るため、ルビーの意思で動かせる騎士の力を、と。

「それにしても、ホント仲良いのね。王女の名を呼び捨てるなんて、普通許されないことよ」
 ふふっと軽く笑う。言葉に咎める響きもない。
「ま、今更ね。――わたしはアイラがいいなら何でも構わないし」

 目を細め、妹に笑いかける。ことごとく男を振り続けているという様子は見られない。
 アイラは不思議そうに小首を傾げる。すぐ上の姉レイナはともかく、他の姉兄たちが 直接部屋にやってくることは珍しい。思ったまま、どうしてと問う。

「んー? いつも以上に険しい顔してピリピリオーラで歩いてく奴らを見かけたから」
 ブレスはそれには応えず、ルークと向き合う。
 彼の様子にルビーは肩をすくめ、アイラは苦笑する。愛想がなくとも他人の話を 丸ごと流すことは常ならばないのに。彼も焦っているということか。


「城内も安全とは言えないようだ。警戒を強める」
 ルークも同じような表情で頷く。
「そうだな。アイラさまにはブレスがついて、それで?」

「メイファには王女から借りる騎士、レイシアも狙われている可能性があるからオルス。ルーク、お前は……」
 お前は、と切った仲間にルークは苦笑する。
「私は、何でも構わないって?」

「――この三ヶ所のどこかに必ずいろ」

 常より真剣みの増した声に、ふっと表情を緩ませ、けれど強い瞳で。
「私の心配? ……大丈夫。守ると、約束したから」


 アイラを守る――誓い。

 メイファを守る――願い。


 ――自分との約束を。












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