「ブレスさん。レイシアの様子が変」
突然呼び止められたブレスは、口調こそ変わらぬもののオルスの表情に少なからず不安を抱いた。
何を考えているか掴めないのはいつも通りだが、何かが違うのだ。
任務を与えられたときの真剣さとも違う。
曖昧な漂う不安感と、抑えた高揚感。苛立ち、焦りの中に、言い表し難い感情を見つける。
「あいつが、今度はレイシアを……」
「あいつ……?」
「うん。この前、不審な気配を感じたから」
ブレスは眉をひそめる。その訝しげな顔は、自分へのものではないとオルスは知っている。
この日とは自分が突拍子もなく何を言っても信頼してくれる。ずっと変わらず。
ブレスは今来た道を引き返す。無言で歩く二人の姿に、人々は知らず避けていく。
目前の扉をノックする。程なくして返事があり、中へと入った。
「これから俺は常時アイラの傍にいる。女手が必要な時はホーリスに頼む」
言われた当人たちは呆気にとられた顔でブレスを見返している。
出て行ったと思えばすぐ部屋に戻ってきて、扉を開けて言い放つ。驚きも無理はないだろう。
「俺のいないときはオルスがつく。――いいな?」
「うん」
わかり合っているのはこの二人だけ。
「説明もなしに話を進めない」
声にブレスとオルスの二人が振り向くとルークの姿。
「ブレスの悪い癖。無口なのは構わないけど、言葉が足りないんだよ」
「ルーク……」
「あとその顔ね。いつも以上にアイラの傍にいるというのなら、もう少し緩ませなさいな。周りの者が皆怯える」
「王女……?」
ブレスがわずか、目を見張る。ルークの後ろから表れた女性を見て。
「わたしの方からも何人か貸し出すから。大事な妹たちのためだもの」
アイラの四番目の姉、ルビーだった。明るい金色の短めに切られた髪に緑の瞳。
丈の長くない薄赤紫のドレスに身を包んでいる。
――アイラたちの身を守るため、ルビーの意思で動かせる騎士の力を、と。
「それにしても、ホント仲良いのね。王女の名を呼び捨てるなんて、普通許されないことよ」
ふふっと軽く笑う。言葉に咎める響きもない。
「ま、今更ね。――わたしはアイラがいいなら何でも構わないし」
目を細め、妹に笑いかける。ことごとく男を振り続けているという様子は見られない。
アイラは不思議そうに小首を傾げる。すぐ上の姉レイナはともかく、他の姉兄たちが
直接部屋にやってくることは珍しい。思ったまま、どうしてと問う。
「んー? いつも以上に険しい顔してピリピリオーラで歩いてく奴らを見かけたから」
ブレスはそれには応えず、ルークと向き合う。
彼の様子にルビーは肩をすくめ、アイラは苦笑する。愛想がなくとも他人の話を
丸ごと流すことは常ならばないのに。彼も焦っているということか。
「城内も安全とは言えないようだ。警戒を強める」
ルークも同じような表情で頷く。
「そうだな。アイラさまにはブレスがついて、それで?」
「メイファには王女から借りる騎士、レイシアも狙われている可能性があるからオルス。ルーク、お前は……」
お前は、と切った仲間にルークは苦笑する。
「私は、何でも構わないって?」
「――この三ヶ所のどこかに必ずいろ」
常より真剣みの増した声に、ふっと表情を緩ませ、けれど強い瞳で。
「私の心配? ……大丈夫。守ると、約束したから」
アイラを守る――誓い。
メイファを守る――願い。
――自分との約束を。
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