「レイシア」
声が聞こえる。
笑って呼ぶ声。呆れて、怒って、泣いて、また笑って。
――あの人の隣で、とても綺麗に微笑む。
今は自分だけを見てはくれない。
それでもいいと、彼女が幸せならと、思った。……それは嘘じゃない。
――はじめましてと、微笑した。
その時すでに、あの人は特別だった。
一番近いのは自分だと思っていたのに、彼女を遠く感じた。
――無理に頑張ろうとしないで、と言った。
無理をしているのは君だと言いたかった。
ただ、守りたかっただけ。
――ずっと一緒にいるから。
微笑んでいてくれたけど、慰めてくれたけど、泣きたいのは同じだった。
世界で二人きりのように思った。
――守るから。
それは自分の役目なのに。
真っ直ぐ顔を上げて、新しい家族に挨拶をしてた。
――だいすき。
と、言ってくれていた。純粋に。あれはいつだったろう。
――だいすき。
舌足らずな声。可愛らしい。……ずっと君を見てた。
――だいすきだよ。
行かないで。どこにもいかないで。ぼくのそばにいて。
「―――――――――ッ」
叫び声が、泣きじゃくる声が、黒が、空が、差し出された腕が。
誰かが誰かを呼ぶ声。君が誰かを呼ぶ声。僕が君を呼ぶ声。
声。声。声。声。声。声―――――。
誰の声。何を叫ぶ。誰を呼ぶ。何を求める。誰が何を。何が誰を。
違う。ダメだ。イラナイ。
「レイシア?」
何事もなく眠っていたはずのレイシアがうなされるその様子に、オルスは声を掛けた。
二人はもう長い間同室だったが、今までにこんなことはなかった。
悪い夢を見ていたとしても、こんなに……苦しんだ様子を見たことなど。
――逆なら、有り得たかもしれないが。
「レイシア、起きて」
「……め…………に、っや……」
言葉にならない、聞き取れない声。必死に伸ばされる手。
無理もないのだろうが、ここのところほとんど眠っていないようだった。
それが珍しく早く寝入ったと思ったら……。
「起きろっ、レイシア!」
びくりと体が反応し、薄く目を開く。
小さな灯りにぼんやりと青白い顔。定まらぬ視線が、けれどオルスをとらえる。いや、その人影を。
「……に、い……」
「レイシア?」
「め……ぇ……っ」
そして、レイシアは気を失った。
繰り返し広がるのは、見知らぬ記憶。
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