思ったよりも使えなかった。そう彼は思った。
(だがまぁ、多少なり傷はつけた。――痛いだろう?)
最初はただ奪ってやろうかとも考えた。けれど、それだけだときっと以前と同じで、
仲間どもと揃って取り返そうとするだけだろうと思った。
そんなものはつまらない。
殺すか、とも考えた。けれど面白くない。
いたぶるのだ。傷つけるのだ。――それが望み。
(気が済むまで殺さない)
暗い闇の中で笑うその姿を見る者は誰もいない。その歪んだ笑み。
声を聞く者もない。狂った玩具が音を立てるような笑い声を。
(お前の為なら何でもしてやるよ)
次の獲物、とエーヴィは王女、少年騎士、もう一人の騎士、と候補をあげていた。
ルークはもちろん論外だし、ブレスは厄介そうだからだ。
「さぁて、どいつにするかな……」
コールダリィ城内の庭にある背の高い木。いつか城よりも成長するのではと思えてしまうほどの、
その木に彼はいた。下からは見えない高さ、しかも不可視の術をかけて。
そこから見えるのは、窓と壁ばかり。けれど耳にはめ込んだ石に力を注いでいるため、
そこから目へと力を流し、透視の術を使うことが出来るのだ。
「王女サマ……は、あのデカブツがずっとついてる、か」
クッションに埋もれるように突っ伏す彼女の傍らにはブレス。
メイファと同じく、彼女一人を捕らえようと思えば可能ではあるだろうけれど。
「オル……―――っ」
振り向いた。
視線を移したその瞬間に。
――まさか。
(見えるワケがねェんだ。気配を……? まさか)
どんな人間だ、それは。有り得ない。
けれど、その人物は確かに。
(こっちを見てる、見てやがる)
嫌な汗が肌を伝う。気持ち悪い。
ダメだと思った。こいつは選べない。こいつだけは。
剣に手をかけ廊下に立つその姿から目を逸らすが、ぞくりと寒気が止まらない。
気温や風の冷たさは術で防いでいるというのに。
――意識を、無理に、外す。
「――――ガキ、見っけ」
城の端に位置する建物の中、大量の本に囲まれ、必死にページを繰る少年の姿。
やっぱりあいつだ。
そう、決めた。
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