第48話 幼い心は遠く
「おはよう、レイ」



 あの時の微笑みを思い出す。久しぶりに笑った顔を見た、と思った。

 前日に目をはらして帰ってきたから、その日は喋らなかったから、心配していたのだけど。


 やっと、夢から覚めた朝を迎えた気がした――












「レイシア……?」
 突然の訪問――とは言え、部屋は隣だが――と言葉に、ルークは鈍った思考を 叩き起こしながら、ベッドにでも腰掛けるよう促した。

 イスも机とセットであるにはあるのだが、一つしかなく場所も遠い。近い位置でなければ話をしにくい。
 ……というのがいつもの彼の思考だが、今は理由もないかもしれない。


『メイファを助けて』


 そう言った。メイファを助ける? どうにかしたい気持ちは同じだけれど。

「……メイはね、」

 似ていると、よく言う。同じ色の髪と瞳。知らぬ者が見れば間違えてしまうかもしれない。
 アイラともよく似ている。真っ直ぐ前を見つめる姿は尚。いざという時は身代わりに、と昔囁かれていたのも頷けてしまう。 遠縁や二卵性であるとはとても思えないほどに。
 それでも、自分が間違えることなどありはしないが。

「ルークさんのこと、ずっと好きだったんだよ。……多分、あの時から」
「どうしたんだ、急に」
「ここに来て、まだ間もなくて、俺は寂しくて、わけわかんなくて、泣いてばっかりで」


 どうして泣いていたんだろう。後で悔やむこともあった。


 幼い子供が二人、親もなく知らない場所に連れて来られれば、それは当然のことなのかもしれないけれど。 それで、まだ同じで幼い姉に、負担をかけてしまっていた。レイシアが泣くから、メイファは笑った。

「俺、メイに何も出来なかった。苦しかったのも、悲しかったのも、全部、一緒だったのに……っ」
 メイファは一度も泣くことなく。いつだって笑って、微笑って……彼女自身が、見えなかった。
 それがある日を境に、少しずつ、泣いたり怒ったりするようになって。

「ねぇルークさん。はじめてメイと会った時、あれ、初めてじゃなかったんでしょう……?」
 はじめまして、と二人は言ったけれど。メイファの様子の違いに、気付かないはずがなかった。
 そしてわかった。繋がった。

「メイが変わったの、ルークさんのおかげなんだよね」
 自分には何も出来なかった。なのに。
「レイシア……」

 悔しかった。誰より大切な人なのに。痛みも何もかも、分かち合えるのは自分なのに。
 それからも、メイファは変わっていった。ルークの隣で幸せそうに微笑った。

「ルークさん……」

 青い瞳が真っ直ぐそこにある。真剣に話を聞いてくれているのがわかる。
 だから好きなのだと。だから嫌いなのだと。
 二つの感情で想う。

「俺、メイが好きだよ。誰よりも好きだ」


 大切な人。一番好きな人。ずっと傍にいて、この手で守りたい。

 だけどそれは儚い願い。幼いままに育ってしまった心。


「でも俺じゃダメなんだ! 俺じゃメイを守れない……」

 無力に泣いて、強くなりたいと思った。だから騎士になると決めた。
 それでも……自分はまだ非力で、力だけでは守ることが出来ないものもあると知って。

 メイファに必要なのはルークだと、わかってしまっているから。


 ――だからお願いします。どうか、どうか。




「メイを助けて……ッ」












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