その姿が見つけられたのは、城の者がそれぞれ動き始める朝の時刻をどれほどか過ぎた頃。
回廊に座り込んだ騎士の姿に、声を掛けたが返答がないと、侍女が己の主に報告したためだった。
それは第三王女シルクと第六王女レイナの侍女で、共に主のための飲み水を
用意しに行く、毎朝の行動の最中のことだった。
その場所から比較的近かったシルクの元へと侍女が走り、王女の確認の後にアイラへと知らされた。
「お父様たちには私から話しておく」
髪を結い上げた背の高い女性。それがシルクだった。身長以上に、雰囲気からその存在感を示している。
「はい、ありがとうシルク姉さま」
「すまないな、何もしてやれなくて……。何かあれば呼んでくれ」
妹の額に口付け、シルクは去っていった。忙しい人なのだ。
王族としての務めだけでなく、司法長としての仕事もこなしているのだから。
「今度はメイファがルークさん襲って、それで倒れた、って?」
オルスの声にも嫌悪がにじむ。顔をしかめたアイラはぼすっとクッションを叩く。
メイファはシルクの命令ですでに部屋に運ばれている。
「あーもう、何なのよエーヴィって人っ!」
「オレたちの敵」
敵。
そう。もう個人同士の恨みつらみという話ではない。
「こういう時にこそいるべきなのに……あの馬鹿男ッ」
皆の頭に浮かぶ、口の端を上げて笑いながらも愛嬌を振りまく男の顔。
事件を巻き起こし、事件に巻き込み、事件に首を突っ込み……。
イラテイトでの最終日にも現れていたのだと、オルスから聞いている。何のためになのかは知らないが。
「あたしたちには魔導の力のことはわからないし、どうすれば術が解けるのか……」
魔導使いのことは魔導使いにしか。
理解したいと思いながらも、自分たちに力はないから。
でも、とオルスは言う。
「シライザと連絡なんてとれないし」
仲間でも何でもないのだ。いつも、寄ってくるのは向こうの方で。
レイシアは黙ったまま、心の中で彼の名を呟いた。何度も何度も、祈るように。
けれど、その声が届くことはなく。
――レイシアには後天性の力があった。
魔導使いと近しい者には、力の影響を受け、後天的に力を有するようになる者がいる。
魔導の力を記す文献にも載っていない、知る者のほとんどいないことではあるが、
本人は皆、直感で理解する。それが何であるか。使えばどうなるのか。
「レイシア?」
ブレスの声に視線が集まる。……顔が青白い。
後天性の力は、命を削る。魔導使いの力とは、根本的に違うのだ。
「大丈夫……? 少し休んだ方がいいわ」
「あ……ごめんなさい、ちょっと眩暈がしただけなんですけど……」
自分の部屋に戻ろうと立ち上がるがふらつき、見かねたブレスに付き添われての退室となった。
けれど…………皆が、差こそあれ、顔色を悪くしていた。
――どうすれば。
どうすればいい。自分にはどうすることも出来ないのか。離れた方がいいのか。
騎士のために与えられている宿舎の自分の部屋の中、ベッドに腰掛けたルークは
髪を引きちぎってしまいそうに掴み、大切な人を想った。
どうすることも出来ないのなら。苦しみばかりを与えてしまうのなら。と……。
……そのまま、どれくらいの時間が過ぎたのか。
物音に顔を上げるとドアを叩く音がした。控えめなのは夜も遅いからか。
この時間まで何をしていたか覚えていないけれど。
「ルークさん……」
「……レイシア?」
名を呼んだことを返答と取ったのか、ドアが開く。
どうしたのかと立ち上がろうとして、少年の表情に気付いた。昨日までの彼とも、今までに知る顔とも違っていた。
「お願いです……メイファを、助けて下さい……」
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