目が覚めると泣いていた。
「おはようございます」
日常の始まり。何でもない一日。
だけどそこにはあなたがいて。
「おはようございます、メイファさん」
それはあまりにも自然で。当たり前に存在していて。
知らない人なのに、という思いと、知っているはずなのに、という想い。
なんだか訳がわからなくなって、苦しくなって。
だけど泣きそうになると、あなたが泣き出しそうに微笑うから。
「どうして、ここに?」
聞かれて、ああどうして自分はこんな場所まで歩いてきたんだろう、と思う。
部屋から幾分離れた回廊だった。中庭に面していて、春や夏ならば花の咲いている様が見れ
好きな場所ではあるが、花があるわけでなく、しかも朝から来るなんて。
「ルークさまは、どうしてですか?」
回廊に腰を下ろしそこから外に足を下ろしたルークは、どこか遠くを見て、そうして振り向いて微笑む。
「ここは、私にとって思い出のある場所だから」
どうして、という思いが駆け巡る。
どうしてこの人はこんなにも優しく笑うのだろう。笑いかけてくれるのだろう。
――あなたのことを、忘れてしまった私に。
あ、とルークが声を上げる。
「私がここに座っていたって、内緒にしておいて下さいね。床になんて、怒られてしまいますから」
どうして。どうして。
(私にはあなたがわからないのに……)
教えてもらっても、傍にいても、思い出せないのに。
「そんな顔しないで下さい」
ああほらまた、そう言うあなたこそが泣きそうな顔。
「私に対して、悪いとか、どうしようとか、思わないで。私のことで思い悩まないで。
私の、せいですから……危険な目にあわせてばかりで。あなたは優しいから、
どうしても考えてしまうのだとは思うけど。……悪いのは、あなたではなく、私だから……」
またそうやって、笑うの。
泣かないでほしい。だけど無理に笑わないでほしい。……なぜだか、落ち着かなくなる。
「ルークさまこそ、そんな顔、しないで下さい……」
「……傲慢、ですよね。ある種、自業自得のようなものなのに。自分が原因であなたの中から自分が消えて、それを辛いだなんて」
「そんなこと……」
「……伝えておけばよかったのかな、と。少し、思ったりもして……」
好きだと。誰よりもと。――現状に、満足ではないけれど、慣れてしまっていた。
互いに口にした訳ではないから、明確な感情はわからないけれど、多少なりと好かれているのは感じられて。
傍にいられるのが当たり前になっていたから、それだけで幸せで。
もし、伝えて受け入れられて、それで忘れられたら、もっと辛かったのかもしれないけれど。
それでも。
「レイから、聞きました。私はあなたのことが好きだったのだと」
ああ、ああ……どうして言えなかったのだろう。臆病な自分。
泣きそうに、思う。
「――好きです」
「で、も……私は……」
「メイファさんは、メイファさんだから。……私のことを覚えていなくても、あなたは私の好きなメイファさんです」
戸惑うメイファの様子に、ルークは小さく哀しげに微笑した。
「すみません、困らせたくはないのですが」
メイファは首を振り、細い声でどうしてと言う。
それはどれに対しての問いなのか。わからないけれど、今言えることは。
「あなたがあなたである限り、私はあなたを愛しています」
――思い出したい。
思った。心から、思った。
そして……………声を、聞いた。
知らないはずの、有無を言わさぬ、声を。
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