「すまない、レイシア」
声に顔を上げ、レイシアは薄く笑った。
「どうして謝るんですか。ルークさんは悪くないでしょう?」
「いや、エーヴィに憎まれている私のせいだ」
自分は、この少年に謝らねばならないことばかりをしている気がする。
少年の愛する少女を好いているから。愛しているから。
「ルークさん」
レイシアは強い瞳で真っ直ぐに笑う。
「謝らないで。自己嫌悪っていうか、自分で思うのはルークさんの勝手だけど、
一番キツイの、ルークさん自身なんだし。俺も、メイがルークさんのこと……苦しいけど」
少しの揺らぎを見せ、すぐに消す。
――いつの間にこんなに強くなったのだろう、この子は。
本心は今も泣き喚きたい思いなのだろうに。
「俺を、もっと鍛えて下さい」
強くなりたいと望む。自分も、仲間も、皆。
ルークは微笑して頷くと、傍らに掛けていた剣を手にした。
休憩は終り。鍛錬を再開しよう。
―――強く。
ペンを投げ出したアイラは、イスの上でうーんと伸びをした。
毎日毎日、勉強だ王族の務めだと、目の前の紙の束は増えていく。
「こんなことしてる場合じゃないのにっ」
「落ち着け。どうにもならん」
ブレスの言葉にアイラは頬を膨らませる。と、ため息が聞こえる。
なのでアイラもため息を返してみた。
(……ってそんなことして遊んでる場合じゃないんだって)
彼といると、つい自分が居心地のいいように、構ってもらおうと、してしまう。
―― 一番大切な人に忘れられてしまうなんて、何よりも辛いこと。
想いを抱える身だから強く思う。壊れてしまいそうな辛さだろうと思う。
とても……とても、耐えられたものではない。
「もうすぐお茶の時間だ」
「わかってるわよ。それまで頑張りますっ」
考えても、何も思いつきはせず。
ただ日々を過ごす。何も出来ず。
――大切な人だから、何とかしたいと思うのに。
「ねえ」
メイファは振り向いて笑った。
「どうしたんですか、オルスさま?」
少しだけ開いた扉の間から覗いて、オルスは視線をさ迷わせる。
「アイラさまはお仕事、ブレスさまはその護衛。レイとルークさまは廉技場です」
「うん……。お茶?」
「はい。部屋でお待ちいただけますか?」
"部屋"とはアイラの部屋を指す。頷くとオルスは扉を閉めた。
この軽調理場――湯を沸かしたり、簡単な調理に用いる――で菓子作りの準備をしていたホーリスにメイファは笑い掛ける。
「今日は少し早めに用意しましょうか」
笑み返して手早くカップ類を棚から取り出すと、ホーリスは一度扉に視線をやった。
――少し、疲れているようにも見えたけれど。
「……ホーリス。一つ、聞いてもいいかしら」
「はい、何でしょう?」
「ルークさまには、何を用意すればいい……?」
息をのみ、それでも笑みを浮かべてホーリスは答えた。いつもメイファが淹れていた種類の葉を取り出し示した。
お茶を用意しましょう。しばしの間でも、落ち着いた時間となるように。
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