第44話 あなたにお茶を
「すまない、レイシア」

 声に顔を上げ、レイシアは薄く笑った。
「どうして謝るんですか。ルークさんは悪くないでしょう?」
「いや、エーヴィに憎まれている私のせいだ」


 自分は、この少年に謝らねばならないことばかりをしている気がする。
 少年の愛する少女を好いているから。愛しているから。


「ルークさん」
 レイシアは強い瞳で真っ直ぐに笑う。

「謝らないで。自己嫌悪っていうか、自分で思うのはルークさんの勝手だけど、 一番キツイの、ルークさん自身なんだし。俺も、メイがルークさんのこと……苦しいけど」
 少しの揺らぎを見せ、すぐに消す。

 ――いつの間にこんなに強くなったのだろう、この子は。

 本心は今も泣き喚きたい思いなのだろうに。

「俺を、もっと鍛えて下さい」
 強くなりたいと望む。自分も、仲間も、皆。

 ルークは微笑して頷くと、傍らに掛けていた剣を手にした。
 休憩は終り。鍛錬を再開しよう。


 ―――強く。












 ペンを投げ出したアイラは、イスの上でうーんと伸びをした。
 毎日毎日、勉強だ王族の務めだと、目の前の紙の束は増えていく。


「こんなことしてる場合じゃないのにっ」
「落ち着け。どうにもならん」
 ブレスの言葉にアイラは頬を膨らませる。と、ため息が聞こえる。
 なのでアイラもため息を返してみた。

(……ってそんなことして遊んでる場合じゃないんだって)
 彼といると、つい自分が居心地のいいように、構ってもらおうと、してしまう。


 ―― 一番大切な人に忘れられてしまうなんて、何よりも辛いこと。


 想いを抱える身だから強く思う。壊れてしまいそうな辛さだろうと思う。
 とても……とても、耐えられたものではない。


「もうすぐお茶の時間だ」
「わかってるわよ。それまで頑張りますっ」

 考えても、何も思いつきはせず。
 ただ日々を過ごす。何も出来ず。


 ――大切な人だから、何とかしたいと思うのに。












「ねえ」
 メイファは振り向いて笑った。

「どうしたんですか、オルスさま?」
 少しだけ開いた扉の間から覗いて、オルスは視線をさ迷わせる。
「アイラさまはお仕事、ブレスさまはその護衛。レイとルークさまは廉技場です」

「うん……。お茶?」
「はい。部屋でお待ちいただけますか?」
 "部屋"とはアイラの部屋を指す。頷くとオルスは扉を閉めた。

 この軽調理場――湯を沸かしたり、簡単な調理に用いる――で菓子作りの準備をしていたホーリスにメイファは笑い掛ける。
「今日は少し早めに用意しましょうか」
 笑み返して手早くカップ類を棚から取り出すと、ホーリスは一度扉に視線をやった。
 ――少し、疲れているようにも見えたけれど。


「……ホーリス。一つ、聞いてもいいかしら」

「はい、何でしょう?」
「ルークさまには、何を用意すればいい……?」
 息をのみ、それでも笑みを浮かべてホーリスは答えた。いつもメイファが淹れていた種類の葉を取り出し示した。



 お茶を用意しましょう。しばしの間でも、落ち着いた時間となるように。












<< back    next >>

NOVEL