その情報は瞬く間に城中を駆け抜けた。
王家遠縁の、国王夫妻の養娘であり王女アイラの側近である少女が見付かった、と―――。
慌しく駆け込んで来たのは、どこかへ行っていたオルスだった。
「アイラさま!?」
「いないよ」
部屋の主の名を呼んだものの、返った声は少女のものではなく。
そこにいたのはルークとブレスの二人だった。ほぼ中央に位置するテーブルのイスに座っている。
「メイファ、見付かったって……?」
つい先ほど集まって話している騎士たちの話を耳にし、急いで戻ってきたのだ。
彼を待っていた二人、微かにルークが笑う。
ブレスを見遣って、喋る様子がないのを見て口を開いた。
「ブレスが城に戻った時に通用門のところで見つけたんだって。今は部屋で眠ってる。
アイラさまとレイシアがついてて、医師も何ともないと言っている」
安堵した、けれど不安の入り混じった表情。
「ルークさんは、いいの?」
ルークは瞬き、ああと思い至って微苦笑を浮かべる。メイファの傍にいなくて、とオルスは言っているのだ。
少しだけ考え込むようにして、ルークはオルスを見る。
「まずは、アイラさまとレイシアに安心してもらいたい、かな」
「心配だったのルークさんもでしょ。同じ……それ以上に苦しかったと思うけど」
その言葉に、ブレスも無言で頷く。それは、誰が見ても明らかだったから。
思わず苦笑するルークだったが、すぐに表情を変える。……他に思うところもあるのだ。
ルークはブレストオルス二人に、声を低める。
「――何故、メイファさんは帰ってこられたと思う?
メイファさんが必死に抗って逃げられたとも考えられるが、奴が何もせず見逃すとは思えない」
――目の前で消えたエーヴィとメイファ。
あの日の光景は、ずっと焼きついている。
「あの男は」
ブレスは視線を合わせるわけでなく、ルークを憎むその姿を浮かべる。
「見た目から察しても、自意識過剰で根に持つタイプだとはわかる。だが……」
「オレたち、あのエーヴィ? って人のこと知らないし」
それはそうだな、と思う。自分もはっきりわかっているわけではないが、自分の意思とは無関係に、長い付き合いとなっている。
話せば長いけれど、とルークは話し出す。
「互いに幼かった頃に、私たちは出会って……」
そう、幾日か前の――遠く感じてしまうけれど――あの少年騎士たちと同じような時代に巡りあった。
それが――
「それが始まりだった」
「小さい時からずっとあんな?」
「―――…ああ、捻じ曲げてしまったのは私かもしれない……」
執拗に命を狙われるようになって、そうして知る。意図せず、気付くことなく、傷つけていたのだと。
「あいつは元々騎士だった。魔導の力もなくて。それが――」
「夏に再会したら……か」
「……ああ……」
――どこまで、自分を捨て去る気なのか。
何をしたつもりもない。けれど奴を変えたのが自分だと言うのなら、そのために傷つけたいと言うのなら。
それは自分にのみ向けられる敵意、殺意であるべきなのに。
目覚めるとそこは自分の部屋で、泣き顔のアイラとレイシアが目に入った。
次の瞬間にはアイラに抱きつかれていて、メイファは何がなんだかわからなかった。
「アイラ…さま……?」
「馬鹿ッ! 心配したのよ……っ!?」
返事も出来ぬうちにアイラとレイシアが似たような顔で笑い合った。
聞こえたノックにレイシアが扉を開け、迎え入れて笑う。
「メイファ、何ともない?」
「え、ええと……よく、わからないのですけど……」
よく、わからない。オルスの言葉の意味が。何故、自分が眠っていたのか。
大変な目にあったのだから、とアイラが優しく笑む。
「メイファさん……」
名を呼ぶ声に、本当にアイラの言うように疲れているのだろう、と思った。
声を聞くまでその存在に気付かなかった。すぐ近くまで来ていたのに。
「私のせいで、すみません……」
申し訳ないと、心底から思っているのだと感じる声。
「何がですか?」
わからない。何を謝ることがあるのだろう。
どうして、皆はこんなにも心配そうにしているのだろう。
そして、何よりわからないのは――…
「あなたは、誰ですか……?」
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