「エーヴィ!!」
もう五年以上の因縁の付き合いを続けている男の声に、エーヴィは笑んだ。
自分の前には少女、離れた場所にその姿。
メイファを誘い出している最中に気付き追ってきたのだろう。
(そう来なくちゃ、なぁ。お前がいないと始まんねぇ)
汗が浮かんで見える。走ったからと言っても、この程度の距離で。
「相ッ変わらず団体サンで、ご苦労なこった」
前回とまるで同じ。こちら側にメイファ、向こうにはルークと騎士たち、その主。
「メイ!」
「メイファさん、こっちへ!」
「そうはいくかよ!!」
エーヴィが手をかざすと双方の間に雷が落ちた。金属を通して痺れが走り、
騎士たちは思わず手にしていた剣を取り落とす。後方でアイラを守らんとしていたブレスが僅かに前に出た。
「話でもしようじゃないか?」
「話すことなどない!」
断ち切るようなルークの声を、無かったかのようにエーヴィは続ける。
「今回の目的はなぁ、ルーク。お前であってお前じゃねんだよ」
「何……!?」
「俺なんかと利く口も耳も騎士サマは持ってないようだから、優しくも勇敢な姫サマ連れて退散してやるとしましょーか」
エーヴィは一瞬で炎を繰り出し、顔色を変えて剣を手に向かってくる敵の足を止めると、同時に少女の元へと滑り手を伸ばす。
「メイ!?」
「何をする気だ!!」
エーヴィの顔に、今まで以上の笑みが浮かぶ。
「こうするんだよ!」
「……え」
何が起きたのか、メイファにはわからなかった。理解までの思考回路が途切れてしまったかのように。
押し付けた唇、そして顔を離したエーヴィは、瞳から意思の光を失って倒れる彼女の体を掴み、
その耳元で何事かを囁いてから、冷たく光る黒い瞳でルークを見た。
「貰うぞ、ルーク?」
――力を失ったメイファ。抱えるエーヴィ。
体が震えた。これは怒り。今までに感じたこともないほどの。
「何故、こんなことをする……」
剣が静かな音を立てる。今振るえば、己も道を誤ってしまいそうに、どこかで思う。
またしても、奴の悪逆を許してしまうのか……!?
「お前がこの娘を好いてるからだよ!」
――自分から何もかもを奪ったお前の。
「大切なものを奪ってやるんだよ、目の前で! 苦しいだろう? 辛いだろう?
……泣けよ。傷付けよ。そんなお前が見たいんだよ! お前の幸せなんてぶっ壊してやるよ!!」
「俺だけ狙えばいいだろう!?」
「周りから壊さなきゃ意味ねんだよ!!」
(どうして……)
何故、この人はこんなにもルークを憎むのだろう。
「一番大事なモン壊してやるんだよ」
この二人の間に何があったのか、アイラも、他の皆も、知らない。
「……やめて……」
何も知らない。だけど。
「ははは……ははははは―――――」
「やめてよ!」
――叫びは、心そのもの。
気丈なはずのアイラは涙を浮かべ、レイシアは顔を歪めていた。
エーヴィは、気分を害したとでも言うように鼻を鳴らす。
「お前らも消してやるさ」
ルークに関わるものは全部。まずは、そう、中心にいる――
「あんたから行」
「そんなこと、させるわけないでしょ」
危なげな光を宿した瞳が、金であるはずのそれが今はどこか黒く。
冷たい黒と黒。似てるようで似ていない、それでいて似ている色がぶつかる。
燃えるような炎の瞳は、今まさに決意の揺らめきを持ち。静かに射るように見つめる。
「前もって知っててヘマなんかしないよ」
「アイラは命を懸けて守る。俺たちもそう簡単にやられはしない」
「……よくそんなことが言えるな」
――メイファを手放してしまったお前らが。
「取り返すよ。絶対」
真っ直ぐな視線。泣き出しそうな顔をしていたのに。
(――みんなして同じ目ぇしやがって……っ)
左腕にメイファを抱え、エーヴィは空いた手を振り下ろす。自らの脚に叩き付けたかと思えば、
突如空間が歪みを見せ始め、彼は少女をその中へと放り入れた。
「やれるもんならやってみろ。殺してみろよ」
収縮していくその中に、エーヴィは姿を消した。
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