第40話 幕開け

「エーヴィ!!」


 もう五年以上の因縁の付き合いを続けている男の声に、エーヴィは笑んだ。
 自分の前には少女、離れた場所にその姿。
 メイファを誘い出している最中に気付き追ってきたのだろう。

(そう来なくちゃ、なぁ。お前がいないと始まんねぇ)
 汗が浮かんで見える。走ったからと言っても、この程度の距離で。

「相ッ変わらず団体サンで、ご苦労なこった」
 前回とまるで同じ。こちら側にメイファ、向こうにはルークと騎士たち、その主。

「メイ!」
「メイファさん、こっちへ!」

「そうはいくかよ!!」

 エーヴィが手をかざすと双方の間に雷が落ちた。金属を通して痺れが走り、 騎士たちは思わず手にしていた剣を取り落とす。後方でアイラを守らんとしていたブレスが僅かに前に出た。

「話でもしようじゃないか?」
「話すことなどない!」
 断ち切るようなルークの声を、無かったかのようにエーヴィは続ける。

「今回の目的はなぁ、ルーク。お前であってお前じゃねんだよ」
「何……!?」
「俺なんかと利く口も耳も騎士サマは持ってないようだから、優しくも勇敢な姫サマ連れて退散してやるとしましょーか」

 エーヴィは一瞬で炎を繰り出し、顔色を変えて剣を手に向かってくる敵の足を止めると、同時に少女の元へと滑り手を伸ばす。
「メイ!?」
「何をする気だ!!」

 エーヴィの顔に、今まで以上の笑みが浮かぶ。
「こうするんだよ!」
「……え」


 何が起きたのか、メイファにはわからなかった。理解までの思考回路が途切れてしまったかのように。

 押し付けた唇、そして顔を離したエーヴィは、瞳から意思の光を失って倒れる彼女の体を掴み、 その耳元で何事かを囁いてから、冷たく光る黒い瞳でルークを見た。


「貰うぞ、ルーク?」


 ――力を失ったメイファ。抱えるエーヴィ。


 体が震えた。これは怒り。今までに感じたこともないほどの。

「何故、こんなことをする……」

 剣が静かな音を立てる。今振るえば、己も道を誤ってしまいそうに、どこかで思う。
 またしても、奴の悪逆を許してしまうのか……!?

「お前がこの娘を好いてるからだよ!」


 ――自分から何もかもを奪ったお前の。


「大切なものを奪ってやるんだよ、目の前で! 苦しいだろう? 辛いだろう?
 ……泣けよ。傷付けよ。そんなお前が見たいんだよ! お前の幸せなんてぶっ壊してやるよ!!」

「俺だけ狙えばいいだろう!?」

「周りから壊さなきゃ意味ねんだよ!!」


(どうして……)
 何故、この人はこんなにもルークを憎むのだろう。

「一番大事なモン壊してやるんだよ」

 この二人の間に何があったのか、アイラも、他の皆も、知らない。
「……やめて……」
 何も知らない。だけど。

「ははは……ははははは―――――」


「やめてよ!」


 ――叫びは、心そのもの。

 気丈なはずのアイラは涙を浮かべ、レイシアは顔を歪めていた。
 エーヴィは、気分を害したとでも言うように鼻を鳴らす。

「お前らも消してやるさ」
 ルークに関わるものは全部。まずは、そう、中心にいる――
「あんたから行」

「そんなこと、させるわけないでしょ」
 危なげな光を宿した瞳が、金であるはずのそれが今はどこか黒く。
 冷たい黒と黒。似てるようで似ていない、それでいて似ている色がぶつかる。
 燃えるような炎の瞳は、今まさに決意の揺らめきを持ち。静かに射るように見つめる。

「前もって知っててヘマなんかしないよ」
「アイラは命を懸けて守る。俺たちもそう簡単にやられはしない」
「……よくそんなことが言えるな」

 ――メイファを手放してしまったお前らが。


「取り返すよ。絶対」


 真っ直ぐな視線。泣き出しそうな顔をしていたのに。
(――みんなして同じ目ぇしやがって……っ)

 左腕にメイファを抱え、エーヴィは空いた手を振り下ろす。自らの脚に叩き付けたかと思えば、 突如空間が歪みを見せ始め、彼は少女をその中へと放り入れた。


「やれるもんならやってみろ。殺してみろよ」


 収縮していくその中に、エーヴィは姿を消した。












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