第39話 災いの訪れ
 トーナメントは準々決勝まできていた。
 試合が進むにつれ会場もますます盛り上がっていく。

「準々決勝第三試合、アンガス=ゼノ対ライ―――」
 騎士の名を告げる声が、途中で消える。代わりに響くのは爆音。
 歓声であったはずの声は、一瞬で悲鳴に変わる。

「何が起きた!?」

 クライブが叫ぶような声を出す。
 それはその場の皆が同じ気持ちで、似た声があちこちで上がる。


 ――混乱。


 人が多いため、それも常は屋内で静かに過ごす者が多いため、それは凄まじいほどに大きい。 クライブは妹を守るよう傍に寄せ、他の者は二人を囲む。
 こんな厳重な警備の中で、と誰もがそう思っていた。


「――来た」


 こっちを見た。気付いた。――目が合った。
 その顔は、ナゼ、ここにいるのか? それとも、こんなことをするのか?


 ――来いよ。










 何が起きたかわからないものの、その場から離れようと逃げ惑う人々の流れを掻き分け、 辿り着いた先は、会場からそんなには離れていない廃墟だった。
 宙を行く影を見失わないよう必死に追っていたが、相手は逃げているにしてはおかしな行動をとっていた。 追っていることには気付いていた。振り切ろうと思えばそう出来たはずだ。


「――よお」
 振り返り、悠然とした笑み。前にも増した、全身から見て取れる禍々しさ。

「エーヴィ=トリク……」

 前回この男が現れたのは三ヶ月ほど前だった。また会うことになるのではないかとは思っていたが、 それは漠然とした考えでしかなく、こうもすぐに再会することになるとは思ってもいなかった。

「覚えててくれて嬉しいよ、姫サマ」
「……それ、やめてくださいって言ったと思うんですけど」

 今も隠れることなど考えないよう、崩れかけた石造りの柱の上に立っている。
 メイファは彼の全身に視線を走らせた。元々は魔導の力を持たなかった人間。
 彼が力を宿した道具を媒介し魔導を用いるということは、以前の騒動で知っている。
 目につく箇所にあるのは、ピアスとリング、ベルト……あの服で隠れた所にも何かあるのかもしれない。


「勇猛果敢な姫サマ」


 風が土に似た色の髪を揺らし、エーヴィは目を細めて笑う。
「一人で追っかけてくるなんて、学習してねーの?」
 メイファは体を強張らせたが、エーヴィは動く様子を見せず、罠が発動する気配もない。

 ……確かに、無茶なことをしているのかもしれない、とは思う。
 だが考えている暇などなかった。また何かをするのかと。

「どうして、あなたがここにいるんですか」
 あの場には、この男の狙うルークが、確かにいたけれど。
「どうしてあなたはこんなことを……!」

 狙いはルーク一人なのではないのか。彼を付け狙われるのも不安で不快だが、 こんなに大勢の人間がいる場所を、無関係な人々を、なぜ。
 この男がただ混乱を起こしただけで去るとは思えない。

「あんたに会いたくて」

 黒い瞳の、狂気染みた光。

「……何をわけのわからないことを」

 くっ、と笑う。おかしいのか、楽しいのか、わからない笑いで。
 高いその位置からしゃがんで見下ろす。


「本当さ。あんたに会うためだよ、姫サマ」


 エーヴィの口元が、笑みに歪む。












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