トーナメントは準々決勝まできていた。
試合が進むにつれ会場もますます盛り上がっていく。
「準々決勝第三試合、アンガス=ゼノ対ライ―――」
騎士の名を告げる声が、途中で消える。代わりに響くのは爆音。
歓声であったはずの声は、一瞬で悲鳴に変わる。
「何が起きた!?」
クライブが叫ぶような声を出す。
それはその場の皆が同じ気持ちで、似た声があちこちで上がる。
――混乱。
人が多いため、それも常は屋内で静かに過ごす者が多いため、それは凄まじいほどに大きい。
クライブは妹を守るよう傍に寄せ、他の者は二人を囲む。
こんな厳重な警備の中で、と誰もがそう思っていた。
「――来た」
こっちを見た。気付いた。――目が合った。
その顔は、ナゼ、ここにいるのか? それとも、こんなことをするのか?
――来いよ。
何が起きたかわからないものの、その場から離れようと逃げ惑う人々の流れを掻き分け、
辿り着いた先は、会場からそんなには離れていない廃墟だった。
宙を行く影を見失わないよう必死に追っていたが、相手は逃げているにしてはおかしな行動をとっていた。
追っていることには気付いていた。振り切ろうと思えばそう出来たはずだ。
「――よお」
振り返り、悠然とした笑み。前にも増した、全身から見て取れる禍々しさ。
「エーヴィ=トリク……」
前回この男が現れたのは三ヶ月ほど前だった。また会うことになるのではないかとは思っていたが、
それは漠然とした考えでしかなく、こうもすぐに再会することになるとは思ってもいなかった。
「覚えててくれて嬉しいよ、姫サマ」
「……それ、やめてくださいって言ったと思うんですけど」
今も隠れることなど考えないよう、崩れかけた石造りの柱の上に立っている。
メイファは彼の全身に視線を走らせた。元々は魔導の力を持たなかった人間。
彼が力を宿した道具を媒介し魔導を用いるということは、以前の騒動で知っている。
目につく箇所にあるのは、ピアスとリング、ベルト……あの服で隠れた所にも何かあるのかもしれない。
「勇猛果敢な姫サマ」
風が土に似た色の髪を揺らし、エーヴィは目を細めて笑う。
「一人で追っかけてくるなんて、学習してねーの?」
メイファは体を強張らせたが、エーヴィは動く様子を見せず、罠が発動する気配もない。
……確かに、無茶なことをしているのかもしれない、とは思う。
だが考えている暇などなかった。また何かをするのかと。
「どうして、あなたがここにいるんですか」
あの場には、この男の狙うルークが、確かにいたけれど。
「どうしてあなたはこんなことを……!」
狙いはルーク一人なのではないのか。彼を付け狙われるのも不安で不快だが、
こんなに大勢の人間がいる場所を、無関係な人々を、なぜ。
この男がただ混乱を起こしただけで去るとは思えない。
「あんたに会いたくて」
黒い瞳の、狂気染みた光。
「……何をわけのわからないことを」
くっ、と笑う。おかしいのか、楽しいのか、わからない笑いで。
高いその位置からしゃがんで見下ろす。
「本当さ。あんたに会うためだよ、姫サマ」
エーヴィの口元が、笑みに歪む。
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