朝、食事を済ませた一行は、再び馬に乗って走り出した。
アイラがどうしていたのかの話を聞いたり、イラテイトのコールダリィとの違いを出し合ったりした。
途中、居心地が悪そうに、けれど居心地がよさそうに、アイラが身じろぎをした。
誰も気にせず気付かなかったけれど、彼女は一人、こっそりと笑った。
後ろのブレスも気付いていなければいいのだけど。
「アイラ?」
「なんでもないわよ?」
風が気持ちいい。
空が晴れている。
太陽が輝いている。
――生きていると思える。
大切な友がいる。
仲間が傍にいる。
そして何より。
――ここに。
(あなたがいるんだもの)
幸せだ。これを幸せと言わずして何と言おう。
「殿下―――――っ!」
駆け寄ってくる老人は、彼のじいやだった。共にやってくるもう一人の老人も、見知っている。
「じい……」
「殿下っ、ご無事で……」
その安堵した様子に、バロスは神経を逆撫でられたように吼える。
理不尽な怒りではあるが、今の彼にそんなことは知ったものではなかった。
「じい、何故奴等は戻ってきたっ! 邪魔されぬようにと細工したのではなかったのかっ!」
「で、殿下……じいめは……」
策を練ったのはこの老人であった。バロスのためならば命をも厭わぬ覚悟を持っている。
自分の策の失敗によって王子を危険にさらした。ならばいっそ、と思い立つ。
が、それをとどめる声があった。――王子ではない。
「早まるなて。――バロス王子」
「なんだ」
「このじいめは王子のことを一番にと考えとります。もうそりゃ、他のもんなんか比べもんにならんほどですわ。
せやからこそ、わしも手伝わせてもろたんです」
じいの幼馴染という老人は、止まることなく喋る。
「わしらももうええ年です。いつ死ぬかもわからんじじいですわ。だからこそ、
このじいは王子のために生きるべきと思うとります。わしの勝手な意見で、こいつの意思ちゃいますが」
独特の喋り方だ、と会うたびに思う。
……もう何年共に生きてきたのだろう、この二人は。
「――勝手にしろ」
思い合う様子があの王女たちのようで。苛付く。と同時に憧れてしまう自分に呆れる。
いらぬ、と切り捨ててきたものだというのに。
丁度良い木陰を持った木を見つけ、休憩をとろうと馬をとめた。
ホーリスの焼いたお菓子を食べる。メイファの淹れたお茶を飲む。
あ、と何かを思い出したようで、メイファが鞄から小さな枝を取り出した。
「アイラさまに、これ」
「あたしに?」
「エイルさんからいただいたんです。大切な人にどうぞ、って」
「だったらあたしじゃなくても……」
メイファは笑って首を振る。彼の言っていた大切な人は、自分にとってのアイラだと思ったから。
アイラも微笑を浮かべ、ありがとうと受け取った。
「これ、キーセクの枝よね。幸せの木って言われてる」
「はい。でもちょっと違うみたいです」
「そうなの?」
「もうほとんど存在しなくなってしまった、キーセクよりも前の、先祖にあたる木の枝だそうです」
へぇ、と驚く。ならば珍しいものではないか。
メイファはくすくすと笑って付け足す。その木の名前、と。
「シライザの木っていうそうです」
「えっ」
<< back
next >>
NOVEL