第37話 生きて幸せを思う
 朝、食事を済ませた一行は、再び馬に乗って走り出した。


 アイラがどうしていたのかの話を聞いたり、イラテイトのコールダリィとの違いを出し合ったりした。

 途中、居心地が悪そうに、けれど居心地がよさそうに、アイラが身じろぎをした。
 誰も気にせず気付かなかったけれど、彼女は一人、こっそりと笑った。
 後ろのブレスも気付いていなければいいのだけど。

「アイラ?」
「なんでもないわよ?」


 風が気持ちいい。
 空が晴れている。
 太陽が輝いている。

 ――生きていると思える。

 大切な友がいる。
 仲間が傍にいる。
 そして何より。

 ――ここに。

(あなたがいるんだもの)



 幸せだ。これを幸せと言わずして何と言おう。















「殿下―――――っ!」


 駆け寄ってくる老人は、彼のじいやだった。共にやってくるもう一人の老人も、見知っている。
「じい……」
「殿下っ、ご無事で……」
 その安堵した様子に、バロスは神経を逆撫でられたように吼える。
 理不尽な怒りではあるが、今の彼にそんなことは知ったものではなかった。

「じい、何故奴等は戻ってきたっ! 邪魔されぬようにと細工したのではなかったのかっ!」
「で、殿下……じいめは……」
 策を練ったのはこの老人であった。バロスのためならば命をも厭わぬ覚悟を持っている。
 自分の策の失敗によって王子を危険にさらした。ならばいっそ、と思い立つ。

 が、それをとどめる声があった。――王子ではない。

「早まるなて。――バロス王子」
「なんだ」

「このじいめは王子のことを一番にと考えとります。もうそりゃ、他のもんなんか比べもんにならんほどですわ。 せやからこそ、わしも手伝わせてもろたんです」
 じいの幼馴染という老人は、止まることなく喋る。

「わしらももうええ年です。いつ死ぬかもわからんじじいですわ。だからこそ、 このじいは王子のために生きるべきと思うとります。わしの勝手な意見で、こいつの意思ちゃいますが」
 独特の喋り方だ、と会うたびに思う。

 ……もう何年共に生きてきたのだろう、この二人は。


「――勝手にしろ」


 思い合う様子があの王女たちのようで。苛付く。と同時に憧れてしまう自分に呆れる。
 いらぬ、と切り捨ててきたものだというのに。















 丁度良い木陰を持った木を見つけ、休憩をとろうと馬をとめた。
 ホーリスの焼いたお菓子を食べる。メイファの淹れたお茶を飲む。

 あ、と何かを思い出したようで、メイファが鞄から小さな枝を取り出した。

「アイラさまに、これ」
「あたしに?」

「エイルさんからいただいたんです。大切な人にどうぞ、って」
「だったらあたしじゃなくても……」

 メイファは笑って首を振る。彼の言っていた大切な人は、自分にとってのアイラだと思ったから。

 アイラも微笑を浮かべ、ありがとうと受け取った。
「これ、キーセクの枝よね。幸せの木って言われてる」
「はい。でもちょっと違うみたいです」
「そうなの?」

「もうほとんど存在しなくなってしまった、キーセクよりも前の、先祖にあたる木の枝だそうです」
 へぇ、と驚く。ならば珍しいものではないか。

 メイファはくすくすと笑って付け足す。その木の名前、と。


「シライザの木っていうそうです」


「えっ」












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