第34話 当たり前に大切な
 思わずため息が出た。それは安堵なのか何なのか、自分でもよくわからない。
 どうにかしなければと思っていた物事に、とりあえずの終止符を打った。
 丁度良いからと、アイラたちの騒動に便乗して、といった形になったけれど。


 彼は遥か遠くを見上げた。――相変わらずこの国の空は白っぽい。


(なあ、俺たちは元気にやってるよ。迷惑も掛けてばっかだけど。
 ……でも、ああもっとワガママ言い合ってもいいのかもな。
 俺はじいさんばあさんの孫で、あいつも二人の孫だ。俺たちは兄弟なんだから……)

 互いに言いたいことは言うし、やりたいようにやってはいるけれど、どこかでは遠慮が残っているのかもしれないな、と思う。
 今度また、ゆっくりと話し合ってみようか。



 ――シィ。
 聞き慣れた声が、聞き慣れてしまった聞こえ方で、名前を呼ぶ。

 ――どうなった?
 頭の中や耳元に響くように聞こえる声。

「お前なぁ……ソレ使うなっつったろーがぁ」

 ――大丈夫だよ。心配性だなぁ。
 こちらの気持ちなどお構いなしに、声はくすくすと笑う。

 それで、と促され、シライザは今の出来事を話す。
 乱暴ながら現れた仲間に助けられ、王女は無事解放されたこと。

 よかった、と声は安堵の息を漏らした。
 お人好しだよなぁ、と思ういつものシチュエーションだ。
 ――手伝えてよかった。力になれたんだね。

「はいはい。それはよかったですネー」
 力は使うなと、何度も言っているのに。


 その力は後天性のもの、使い続ければ生命を削る。
 それを心配しているというのに……。

 彼にとって、彼を失うことほどに恐いものはないから。


 ――ねぇシィ。たまには帰ってきなよ。
「……って。今こっちにいないの誰だよ」
 シライザは今もイラテイト城下にいる。家も近い。だからどうせなら寄るかな、と考えてもいる。

 ――俺かな。
「かなじゃなくてお前だっての。……なんなら迎えに――」

 ――ね、シィ。コールダリィって綺麗なところだね。
「……ああ」














「帰ったらお父さまに文句言ってやらなくちゃだわっ」
「陛下がお悪いわけでは……」
「だけど原因の一つではあるもの」

 アイラはブツブツと呟く……わけもなく、言い放つ。
 国王さまもお気の毒に、と何人かが苦笑した。

 城に戻れば、アイラは本当に文句を言うだろう。それも盛大に。
 その光景が容易に想像出来て、オルスなどは笑っていた。


「久しぶりの外は気持ち良いけど、でもやっぱり違うのよね」
 よく知った空気とは違うにおい。風の違う感触。空の違う色。
 コールダリィがいい。強くそう思う。

「今から帰るんだ」
 声に、うんと頷く。
「帰りましょう。……一緒に」

 一緒に。

 当たり前だとずっと思っていたけれど、そうじゃなく、そうだとしてもとても大切なこと。
 ブレスの服の袖をつかみ、見上げる。
「アイラ?」


 ――この声だ。


 ずっと聞きたかった。聞きたくて、聞けて嬉しくて。

 泣きそうに笑う。
「ずっと……ね」
 何を言いたいのか自分でもはっきりしない。けれど思うのだ。

 ずっと。

「――ああ」



 ずっと。












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