第32話 願わくは
「別にもう会いたくもなかったんだが、ま、しゃーねぇよな」

 なんでもないことのように言うと、瓦礫のように崩れ重なった場所に腰掛ける。

「貴様、またよくものこのこと……!」
「お前が悪いんだゼ。あいつらに手ぇ出すから」
「は……!?」

 笑んで喋る表情も、冷たい瞳を強調するばかり。
 悠々と脚を組み、形ばかり見上げる、見下す視線。

「俺は、あいつらが気に入ってんの。わかるカナ、馬鹿王子サマ?」

「貴様……!!」
 重なる暴言に声を荒げ、扉に視線を走らせるバロスの様子に、軽い調子で声が返る。
「おーっと。人呼ぼうたって無駄だぜ。俺特製の壁、張り巡らしてっから」


 ――禁忌の力。


 バロスは息をのんだ。男は口元で笑う。

「お前には、ちーっと、話、さしてもらいましょーかね」













「ああ、来ましたよ」
 ルークの声に目を遣ると、小走りで遣って来る人物が。
 アイラは腰に手を当て軽く睨む。

「もう、何やってるのよ。早く帰りたいのよ、あたしはっ」


 コールダリィへ。元の生活、いつもの日々へ。

 ……こんな落ち着かない場所から抜け出して。


「……ごめんなさい、迷子になった」
「はぁ!? ……マイペースにもほどがあるって」
「でもオルスさまらしいと言えばらしいと言うか」

 レイシアは呆れ、メイファは苦笑する。ブレスは表情を変えることなく、 ルークは落ち着いた微笑を浮かべている。
 息を吐き出し、アイラは歩き出す。
「まぁでも、これでみんなそろったわね」

 みんな、という単語にブレスが反応する。ホーリスは、と。
 頭の回転がまだ鈍っているのか、アイラはそこでやっとその足りない人物の存在に気付き、 メイファから宿にいるとの答えを得た。じゃあ、とアイラは言う。
「合流して出発よ! 他の人たちは……」

 侍従、侍女は。
「この国に費用負担してもらって、送ってもらうことにしましょうっ」

 なんと言っても、あれだけのことをしたのだから。と、皆が同意を示す。
 同意しながらもメイファは、でもと続ける。

「この国にもいい方はいらっしゃいましたよ。エイルさんにはお礼をしないと」
「誰?」
 面識のないアイラは首を傾げる。


 ――彼はまだコールダリィにいるだろう。


 あのまますぐイラテイトに向かっても、馬ではまだ随分かかる。それに、しばらく国を回ると言っていた。
「ああ、あの――」

「うさんくさい雑貨商」

「……………オルス」
「ってルークさんが思った人」
「思ってないから」

 呆れたような困ったような声で否定するが、そうかなぁとオルスは首をひねってみせる。
「だって目、怖かったし」
「それは急がなければならなくて焦っていたからだろう。何を人聞きの悪い」

「んー……オレてっきりメイファといたからヤキモチかと」
「子供じゃあるまいし」
 なんとなく、レイシアはそっぽを向く。複雑そうな表情を浮かべて。

 アイラはうーんと小首を傾げる。
「……そのわりには笑顔で必死に抵抗してるようにも見えるわよ」
「っ、アイラさままで……」

 ルークの様子にアイラが笑い出し、みんなで笑う。
 そうこうしているうちに城外への扉へと遣って来ていた。



 オルスは息をもらす。

(オレの居場所。……恐れるのは壊れること)



 ――失っても、守りたいと。












 叶うならば、自分の所業を知り、傷つくことのないように―――――……。












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