「アイラさま。そろそろ御返事いただきたいのですが」
いつものように――この男と"いつも"だなんて考えたくはないけれど――
部屋を訪れたバロスは、答えを求めた。
これまでよりも強く、自らの望む答えを求めた。
――答えは決まっている。
けれどそれは、そうと口にしてはならないのだ。自分の心ではなく、王女として判断しなくてはならない。
が、考えるほどに答えられなくなり、二つの思いがぶつかり合い、わけがわからなくなっていく。
なんだか、頭の中がぼんやりとする。――しっかりしなくちゃ。そうは思うのだけど。
「愛していますよ。あなたもわたしを好いて下さっていますよね」
声が遠い。自分の感覚も遠い。
――好き……?
(違うわ。あなたなんて嫌い)
「嫌い、です」
なんとか目を見て答えた。
青い瞳が覗き込んでくる。鋭く、胸を抉りさえしそうな視線。
穏やかに、優しく微笑する。白く長い整った指で、軽く頬に触れる。
「あなたはわたしを好いていますよ。愛しています」
ゆっくりと、刻みつけるかのように。
「幸せになりましょう。……あなたが今苦しいと、辛いとお思いなら、
それはご自分の気持ちを否定しようとしているからでしょう。
わたしのことを愛していると、認められれば楽になりますよ」
優しく、優しく。言葉で、表情で、態度で。
――この人は誰。
この幾日、この人物との思い出しかない。押し込められた箱の中。この人物だけ。
――この人が、全て……?
(バロス=イラテイトは、イラテイトの王子で、自分勝手で、よく喋って、それで……)
愛している、と。
何度もそう口にした。目の前の、この優しい人は。
優しい人、は。
「あたし、は……」
「結婚して下さいますね」
――好き。
好きという言葉。
そこから広がる、甘くて切なくて優しい気持ち。
色にするなら、そう、激しくも美しい赤と儚くも綺麗な白。
――赤と白。その色を、知っている。
とても綺麗な、澄んだ色。静かでいて、時に激しく燃え立つその色。
すぐ傍で見ていた、大好きな色だ。
(違う。)
――そうだ、違う。惑うな。
アイラは美しい色を強く思い浮かべる。
(大丈夫。あたしは、あたしなんだから)
コールダリィ第七王女アイラ=コルトック。……いや、コールダリィのアイラ。
まだだ。まだ耐えられる。
「あたしは」
何よりも自らの幸せをと、願われてきた。
立場を捨てるわけではない。他に方法はあるはずだ。
自分でいる為に負けるわけにはいかない。
「あたしは、バロス王子殿下とは結婚出来ません」
だって。
(あたしが好きなのは――)
慌しい足音が駆け込んだ。
城内を警護する兵士のようで、整わぬ息のまま事の大きさを表そうとするかのように、
せわしない身振りでバタバタと動く。
「殿下ッ、な、か……っ、何か、が……」
「何が言いたいのかわからんっ! はっきり物を言え!!」
「です、から、何、か、異変がッ」
その必死な様子にバロスは顔を顰める。
「異変……? 一体何が起きたと言――」
バロスの声は、最後まで続かなかった。轟音によって。
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