何も言ってはいないのに、勝手に話は進んでいく。
抗いたくても身動きが取れず。――本当は、叫んで暴れて逃げ出してしまいたい。
「アイラさま」
ぞくりとするような甘い声。……もう、嫌な反応すら表れない。
帰りが遅いと、連絡がないと、自国から問い合わせの手紙か使者が来ているかもしれなかったが、
アイラには知れないことだった。
――互いにそこそこの国ということが、国同士でもめた時に厄介なところ。
「この国の……我が一家の隠されし秘密をお話しましょう」
「秘密……?」
ええ、と彼は笑む。
「我が花嫁となる、あなただけに」
「大好きなんだね」
唐突な台詞に、メイファは目を丸くした。
――二人は国境に来ていた。そろそろ馬を換えねば保たないだろう。
「はい?」
「メイファさんのしていることの源みたいになってる人。詳しいことは知らないし、別に聞く気もないけどね」
くすくすと、にっこりと、笑う気配がする。メイファからは背中しか見えないが、表情は見えているようにわかる。
大好きだから、心配で、落ち着かなくて、一生懸命なんだよね。そう呟いた声が優しくて。
「エイファルンさんも、大切な方がいらっしゃるんですね」
「エイルでいいよ。……うん、いるよ。幸せになってもらいたい人」
「――はい、幸せに、なってほしいです」
幸せになってほしい。
幸せに。
共に幸せになりたいと願う。
(お前は幸せにしてくれようとするけど、俺はお前に幸せになってほしいよ……)
この駆ける馬のように、それ以上に、休むことを知らず走り続ける人だから。
「――馬鹿みたいなんだよ」
「何か仰いました?」
蹄の音と風の音で、呟きは掻き消された。
「何も」
エイファルンは笑った。
(お前を犠牲にした幸せなんていらない。犠牲になるつもりもない。……もう、何も失わなくていいんだ。だから、)
――幸せに。
イラテイト王家に関する、閉ざされた塔の秘密をバロスは語る。
王子。第一子。禁忌。塔。牢。謎。
少年。銀髪。宝剣。盗賊。
多くのフレーズが耳から入ってくるが、頭の中で上手く繋がらない。
バロスの話は続いている。
「――とは言っても、実際にはわたしと同じ色を有しているかは知らないのですがね」
どうにも頭が回らない。理解しているようで理解出来ていない。
……いや、理解する気も、話を聞く気すら、すでに失っていた。
思考は幸せな記憶へと流れていく。
傍にいること。
触れ合えること。
笑い合えること。
名を呼ばれること。
いろいろなものを共有すること。
――幸せとは、そういうことを言うのだと。
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