第28話 幸せとは
 何も言ってはいないのに、勝手に話は進んでいく。
 抗いたくても身動きが取れず。――本当は、叫んで暴れて逃げ出してしまいたい。


「アイラさま」


 ぞくりとするような甘い声。……もう、嫌な反応すら表れない。
 帰りが遅いと、連絡がないと、自国から問い合わせの手紙か使者が来ているかもしれなかったが、 アイラには知れないことだった。

 ――互いにそこそこの国ということが、国同士でもめた時に厄介なところ。

「この国の……我が一家の隠されし秘密をお話しましょう」
「秘密……?」
 ええ、と彼は笑む。


「我が花嫁となる、あなただけに」













「大好きなんだね」


 唐突な台詞に、メイファは目を丸くした。
 ――二人は国境に来ていた。そろそろ馬を換えねば保たないだろう。

「はい?」
「メイファさんのしていることの源みたいになってる人。詳しいことは知らないし、別に聞く気もないけどね」
 くすくすと、にっこりと、笑う気配がする。メイファからは背中しか見えないが、表情は見えているようにわかる。

 大好きだから、心配で、落ち着かなくて、一生懸命なんだよね。そう呟いた声が優しくて。

「エイファルンさんも、大切な方がいらっしゃるんですね」
「エイルでいいよ。……うん、いるよ。幸せになってもらいたい人」
「――はい、幸せに、なってほしいです」


 幸せになってほしい。

 幸せに。

 共に幸せになりたいと願う。


(お前は幸せにしてくれようとするけど、俺はお前に幸せになってほしいよ……)

 この駆ける馬のように、それ以上に、休むことを知らず走り続ける人だから。


「――馬鹿みたいなんだよ」
「何か仰いました?」
 蹄の音と風の音で、呟きは掻き消された。

「何も」
 エイファルンは笑った。

(お前を犠牲にした幸せなんていらない。犠牲になるつもりもない。……もう、何も失わなくていいんだ。だから、)


 ――幸せに。













 イラテイト王家に関する、閉ざされた塔の秘密をバロスは語る。


 王子。第一子。禁忌。塔。牢。謎。

 少年。銀髪。宝剣。盗賊。


 多くのフレーズが耳から入ってくるが、頭の中で上手く繋がらない。
 バロスの話は続いている。

「――とは言っても、実際にはわたしと同じ色を有しているかは知らないのですがね」

 どうにも頭が回らない。理解しているようで理解出来ていない。
 ……いや、理解する気も、話を聞く気すら、すでに失っていた。



 思考は幸せな記憶へと流れていく。



 傍にいること。

 触れ合えること。

 笑い合えること。

 名を呼ばれること。

 いろいろなものを共有すること。




 ――幸せとは、そういうことを言うのだと。












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