「一体何のおつもりですか」
静かに、真っ直ぐ射るような瞳で相手を見つめる。睨めつける。
抑え切れない感情が、その瞳の穏やかな緑の中、激しく燃え立つ。
一方相手はそんな視線を気にすることもなく――いや、もしろ喜ばしいことのように楽しげに青い瞳を細める。
「聞いていらっしゃいますか、バロス殿下。何か返事くらいしていただけませんか」
苛立つ声にもイラテイト王子は笑みを浮かべるばかり。
「―――――その耳は飾りですか。」
「いいえ、よく聞こえていますよ。あなたの声をもっと聞いていたくてね」
「悪趣味ね」
――アイラは囚われていた。
囚われている、と言っても縛られているわけでもなければ暴力を振るわれているわけでもない。
ただ閉じ込められている。
部屋は白一色で、ただ、広い。窓もない。扉は一つ。
アイラのドレスの緑だけが妙に浮き立って見える。
「大切なモノを閉じ込めて自分だけの物にしたいと思うのは、当然のことじゃありませんか?」
さらり、と。自分は正しいと信じて疑わぬその姿……。
「……そうですね。だけどそれは人の場合、相手の気持ちというものを考えるべきでしょうね」
「お嫌いですか?」
「はっきり言わせてもらうと、そうね」
「これはこれは、冷たいお言葉」
言いながらもバロスは気分を害した様子はない。
「愛していますよ」
とても自然に、とても違和感を伴って。
「………」
アイラは鋭い瞳で睨みつけた。揺るがぬ緑が心を表す。
「思っていた以上に威勢がよろしいですね」
睨むアイラとは対照に嬉しそうな笑みを浮かべ、バロスは何を思い出したのか、思いついたのか、ああ、と声を上げる。
「そういえば、まだ歳の近い王女がいるのにあなたをと望んだのは何故か、おわかりですか?」
「あら、残念ね。レイナ姉さまにはお付き合いしている方がいらっしゃるのよ」
「どうでもいいことですよ。わたしはあなたが欲しいのですから」
唇を引き結び、感情全てをぶつけるような視線で睨む。返るのは、にやにやとした笑みのみ。
なんだか違和感ばかりが膨らんでいく気がする……。
――好き、と。
それはとても素敵な言葉だと思っていた。いや、今だってそう思う。
けれどこの男に言われても、感じるのはただ、嫌悪。
性格的に合わない。だから嫌だと思った。けど今はそれだけじゃない。
多少あのシライザの話に影響を受けているとしても、やはりこの男だけは。
歪んでいる。
自分の持つ言葉で一番嵌るとすれば、これだろう。
「ああ、そうそう」
「――なんですか」
いつ入ってきたのか、侍女が一人、お茶をテーブルに並べていく。
バロスはカップを手にすると、もう片方の手を軽く振って退室を促した。
侍女は無表情に深く頭を下げると音も立てずに出て行った。
注意して見ていなければ、気配も感じられないのではないかと思えた。
「アイラさま」
名を呼んで注意を引く。……そんなことをしなくても嫌でも聞こえている、とアイラからすればそう言いたいが。
「あなたの誕生日に現れた盗賊。奴はこの国出身だと判明したのですよ」
「―――」
「しかも少々ワケアリでして。お聞きになりたければお話しますが」
(そんなこと、聞かなくったってとっくに知ってるわよ……!)
わざわざお話いただかなくとも、と。
「……結構です」
「おや、つれない。この城にも盗みに入ったものですから、暇潰しにでもと思ったのですがね」
「――あなたの話などいりません。あたしを解放して下さい」
男の目が、すっと細まる。瞳に、光が宿る。
ぞくり、とアイラの背に悪寒が走った。
「―――――するとお思いですか?」
静かに言い放った。恐怖とも言える言葉。
戦争になりますよ―――
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