「只今戻りました」
ノックの後その扉から現れたのは、今までの会話の中にいた当の本人だった。
噂をすれば……ということだろうか。
メイファはほっと安堵し、アイラはその前にふくれる。
「遅いっ!」
「はい、遅くなってしまい、申し訳ありませんでした」
言われるだろうと予想していたのだろう、ホーリスはそのまま頭を下げた。
アイラの精神状態がわかっているから。
例え八つ当たりに近いとしても、心配をかけたのは本当だとわかっているし。
「アイラさま。どうどう」
「あたしは馬じゃないわよ、オルス!?」
「ちぇ」
「ちぇっじゃな―――――い!!」
いつもたまにやっているようにアイラとオルスが遊び出したので――アイラは本気だろうし、
オルスは天然でだとしても――見かねたように声が下りる。
「いいから落ち着け、アイラ」
「嫌よ。だったらブレスが何か言って!」
「………」
ホーリスに続いて部屋へと入っていたブレスだったが、今度はオルスからブレスへと標的が変更されそうな気配が……。
思わずルークたちが口を開く。苦笑して。
「オルスには何を言っても無駄ですよ」
「疲れるだけですよ」
しかし今のアイラにも、言っても無駄のようで……
「むぅぅ……みんなしてあたしの敵になるの!?」
「アイラさま。本当に落ち着いて下さい。みんな戻ってきたのに……」
加えて言うならば、オルスもいつもの調子に戻ったようで、完全に勢揃いといった感じだ。
だがメイファの静止もアイラの口を止めることは出来ず、加速させる一方。
「そーよ。みんなも遅かったわ!!」
メイファは疲れたように肩を落とし、周りも困ったように息を吐く。
「そうじゃなくてですね……」
「相当、ストレス溜まってるみたいですね……」
「まあ、仕方ないだろうけど……」
突っ走ってぶつかって誰かに当たって。というのはいつものことで慣れてもいるのだが……
今回はレベルが違う。止めると、それこそ本当に爆発してしまうかもしれない。
諦めた皆の前でなおも暴れ続けるアイラ。
一通り喚き暴れ、ついに疲れたのか飽きたのか、バタッとベッドに倒れ伏した。
おとなしくなったアイラに、ルークは話を切り出す。
「アイラさま、お話があるのですが……」
「なあに〜?」
「……国で何か起きているらしい」
「……なん、っですって!?」
ブレスの声の堅さにも、内容にも、不安が襲う。がばりと身を起こしたアイラは、彼を正面で捉える。
「早馬が伝えに来た。俺とオルスで見てこようと思う」
「あたしも行くわ! ううん、城に戻る!」
「駄目だ」
「どうして! あたしの国よ!?」
ブレスは首を振る。まだ何があったのか、はっきりしたことはわかっていないのだと。
だが騒動が起きているのだとしたら……。
「そんな危険な所に連れて行くわけにはいかない」
「あたしだって足手まといになんかなりたくないけど!」
「そうじゃない!!」
びくりと、アイラは身をすくませる。
「……ブレス……」
「アイラさま。わかって下さい……」
――何を、わかれと言うのだろう。
わかっているのだ、頭では。決して頭は悪いほうではない。何を言いたいか、
何故そういう結論を出し、それを告げているか。付き合いだって、長いのだ。
「……じゃあみんなで行って」
「アイラさま?」
「ブレスとオルスだけじゃなくて、ルークとレイシアも。……危険なら、二人で行かせられないわ」
「駄目だ。俺たちはアイラの護衛騎士だ。皆で離れるわけには――」
「だったらあたしも付いて行くって言ってるでしょ!? ――どちらか選びなさい」
「―――っ」
頑として譲らない。アイラが折れることなどないと、皆が知っている。
だがブレスとて気持ちは同じ。譲るわけにはいかないのだ。わかっているから、睨み合う。
「……俺、残ります」
はっと見遣ると、ぎこちなく笑む姿があった。
「本当に何かがあるなら、俺はきっと足手まといになる。俺はまだまだ弱いから。
だけどアイラさまやメイ、ホーリスよりは強いと思うし、従者のみんなに少しは指示も出せる。
誰もいないよりはマシでしょ……?」
「……いいわ。レイシアはここに残って。ブレス、オルス、ルークは一度コールダリィに戻る」
「――わかった。だからあまり無茶はするな」
アイラは少し寂しそうに、力強く微笑んだ。
<< back
next >>
NOVEL