第21話 何かが
「只今戻りました」


 ノックの後その扉から現れたのは、今までの会話の中にいた当の本人だった。
 噂をすれば……ということだろうか。
 メイファはほっと安堵し、アイラはその前にふくれる。

「遅いっ!」

「はい、遅くなってしまい、申し訳ありませんでした」
 言われるだろうと予想していたのだろう、ホーリスはそのまま頭を下げた。
 アイラの精神状態がわかっているから。 例え八つ当たりに近いとしても、心配をかけたのは本当だとわかっているし。


「アイラさま。どうどう」
「あたしは馬じゃないわよ、オルス!?」
「ちぇ」
「ちぇっじゃな―――――い!!」

 いつもたまにやっているようにアイラとオルスが遊び出したので――アイラは本気だろうし、 オルスは天然でだとしても――見かねたように声が下りる。

「いいから落ち着け、アイラ」
「嫌よ。だったらブレスが何か言って!」
「………」

 ホーリスに続いて部屋へと入っていたブレスだったが、今度はオルスからブレスへと標的が変更されそうな気配が……。
 思わずルークたちが口を開く。苦笑して。

「オルスには何を言っても無駄ですよ」
「疲れるだけですよ」
 しかし今のアイラにも、言っても無駄のようで……


「むぅぅ……みんなしてあたしの敵になるの!?」
「アイラさま。本当に落ち着いて下さい。みんな戻ってきたのに……」
 加えて言うならば、オルスもいつもの調子に戻ったようで、完全に勢揃いといった感じだ。

 だがメイファの静止もアイラの口を止めることは出来ず、加速させる一方。
「そーよ。みんなも遅かったわ!!」
 メイファは疲れたように肩を落とし、周りも困ったように息を吐く。

「そうじゃなくてですね……」
「相当、ストレス溜まってるみたいですね……」
「まあ、仕方ないだろうけど……」

 突っ走ってぶつかって誰かに当たって。というのはいつものことで慣れてもいるのだが……
 今回はレベルが違う。止めると、それこそ本当に爆発してしまうかもしれない。

 諦めた皆の前でなおも暴れ続けるアイラ。
 一通り喚き暴れ、ついに疲れたのか飽きたのか、バタッとベッドに倒れ伏した。
 おとなしくなったアイラに、ルークは話を切り出す。


「アイラさま、お話があるのですが……」
「なあに〜?」

「……国で何か起きているらしい」

「……なん、っですって!?」
 ブレスの声の堅さにも、内容にも、不安が襲う。がばりと身を起こしたアイラは、彼を正面で捉える。
「早馬が伝えに来た。俺とオルスで見てこようと思う」

「あたしも行くわ! ううん、城に戻る!」
「駄目だ」
「どうして! あたしの国よ!?」

 ブレスは首を振る。まだ何があったのか、はっきりしたことはわかっていないのだと。
 だが騒動が起きているのだとしたら……。

「そんな危険な所に連れて行くわけにはいかない」
「あたしだって足手まといになんかなりたくないけど!」

「そうじゃない!!」

 びくりと、アイラは身をすくませる。
「……ブレス……」
「アイラさま。わかって下さい……」


 ――何を、わかれと言うのだろう。


 わかっているのだ、頭では。決して頭は悪いほうではない。何を言いたいか、
 何故そういう結論を出し、それを告げているか。付き合いだって、長いのだ。


「……じゃあみんなで行って」

「アイラさま?」
「ブレスとオルスだけじゃなくて、ルークとレイシアも。……危険なら、二人で行かせられないわ」
「駄目だ。俺たちはアイラの護衛騎士だ。皆で離れるわけには――」

「だったらあたしも付いて行くって言ってるでしょ!? ――どちらか選びなさい」

「―――っ」
 頑として譲らない。アイラが折れることなどないと、皆が知っている。
 だがブレスとて気持ちは同じ。譲るわけにはいかないのだ。わかっているから、睨み合う。

「……俺、残ります」

 はっと見遣ると、ぎこちなく笑む姿があった。
「本当に何かがあるなら、俺はきっと足手まといになる。俺はまだまだ弱いから。
 だけどアイラさまやメイ、ホーリスよりは強いと思うし、従者のみんなに少しは指示も出せる。
 誰もいないよりはマシでしょ……?」

「……いいわ。レイシアはここに残って。ブレス、オルス、ルークは一度コールダリィに戻る」
「――わかった。だからあまり無茶はするな」



 アイラは少し寂しそうに、力強く微笑んだ。












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