「婚約―――――!?」
部屋中に響くその声の大きさに、一斉に耳をふさぐ。
「誰が! 誰と!?」
オルスが噂を耳にしてから3時間余が経っていた。
パーティが終わり、正装のままアイラの部屋に集まった皆は、本人に真偽を確かめたのだ。
「それじゃあ間違いなんですね」
やはりと言うようにルークが頷く。
「当たり前じゃない! 誰よそんな変なこと言い出したのはー!」
オルスが聞いたのは、隣国の王子に求婚されて婚約することになった、というもの。
廊下で囁き交わされる話を耳に留めただけなので、どこから流れた噂かはわからないが。
ソファに腰掛けたまま不機嫌そうに顔をしかめるアイラに、一同は安堵の笑みを浮かべる。
「本人が同意していない以上、絶対に有り得ないってことですよね」
「よかった〜」
「本当にびっくりしたんですよ? な、ブレス?」
「……ああ」
――姉兄たちの時もそうだったので覚悟はしていたけれど。
アイラはぼそりと呟く。
「最悪」
これ以上はないというほどの、心の底からのものに聞こえた。
政略結婚。
王族に生まれたのだから当然と言えばそうだろうけれど、現国王が王位につくより少し前から、
コールダリィの王子、王女はその道具としての役割を拒否していた。
自由に恋し、結婚を。
だからといってこういった話自体がないわけではなく、他国の王族や貴族と結婚している者ももちろんいる。かといって、16歳になったばかりのアイラになど、あまりにも早い。
「そういえばアイラさま」
なぁにと座ったまま見上げるアイラに、ルークは微笑と苦笑の入り混じった笑みをもらす。
「その話を聞いたときのブレスの様子が想像できますか?」
「ブレスの様子?」
「はい」
アイラは憮然としたブレスをじ――っと見つめる。
う〜んと考える彼女と表情を変えないブレスに、見ている皆からくすりと笑みがもれる。
「とても動揺して、顔をしかめてたんです」
「―――――――今以上に?」
その言葉に全員がブレスを見る。すると、確かに彼はしかめっ面をしていて。
思わず顔を見合わせ一斉に吹き出してしまった。
「そうです。今以上に」
「こんなカンジ」
オルスが自分の顔で再現してみせ、さらに笑わせた。
何がおかしいのだと表情で言っていたブレスも、次第に苦笑していた。
――突然バタバタと足音が駆け込んできた。
「アイラさまッ!」
「何事ですか。王女の前で」
「それもお疲れなんだから」
飛び込んできたのは中年の男。常にアイラの傍にいるメイファはもちろん、
騎士たちもそれが誰であるかに気付いた。大臣補佐をしている者だ。
男は肩で息をしながら首を横に振る。
「アイラさまに申し上げます。国王陛下より小広間へ来られるようにとのことですッ」
「国王が……?」
「お父さまが呼んでいるのはわかったけど、何もそんなに慌てなくても……」
もつれかけた足で必死になって走ってくる必要など、とアイラは言う。
今だって息は乱れたままだし、顔色もよくない。そこまで急ぐなんて。
「重要なこと故、早急にお知らせせよとのご命令で」
なんだか、嫌な予感が。
なんとなく聞きたくないなと思いつつ、口を開く。
「何……?」
男は真剣な面持ちで、ごくりと喉を鳴らす。
「ご婚約について」
「こ……!?」
「つい先程、正式に申し込まれたのです」
「は……」
目の前で、自分に向けて言われたのにも関わらず、言葉が染み込むのに時間がかかった。
メイファたちも互いに困惑した視線を交わす。
「はぁ――――――――――!?」
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