第18話 噂と事実



「婚約―――――!?」





 部屋中に響くその声の大きさに、一斉に耳をふさぐ。
「誰が! 誰と!?」

 オルスが噂を耳にしてから3時間余が経っていた。


 パーティが終わり、正装のままアイラの部屋に集まった皆は、本人に真偽を確かめたのだ。


「それじゃあ間違いなんですね」
 やはりと言うようにルークが頷く。
「当たり前じゃない! 誰よそんな変なこと言い出したのはー!」

 オルスが聞いたのは、隣国の王子に求婚されて婚約することになった、というもの。
 廊下で囁き交わされる話を耳に留めただけなので、どこから流れた噂かはわからないが。
 ソファに腰掛けたまま不機嫌そうに顔をしかめるアイラに、一同は安堵の笑みを浮かべる。

「本人が同意していない以上、絶対に有り得ないってことですよね」
「よかった〜」
「本当にびっくりしたんですよ? な、ブレス?」
「……ああ」

 ――姉兄たちの時もそうだったので覚悟はしていたけれど。

 アイラはぼそりと呟く。
「最悪」
 これ以上はないというほどの、心の底からのものに聞こえた。


 政略結婚。


 王族に生まれたのだから当然と言えばそうだろうけれど、現国王が王位につくより少し前から、 コールダリィの王子、王女はその道具としての役割を拒否していた。

 自由に恋し、結婚を。

 だからといってこういった話自体がないわけではなく、他国の王族や貴族と結婚している者ももちろんいる。かといって、16歳になったばかりのアイラになど、あまりにも早い。

「そういえばアイラさま」
 なぁにと座ったまま見上げるアイラに、ルークは微笑と苦笑の入り混じった笑みをもらす。
「その話を聞いたときのブレスの様子が想像できますか?」

「ブレスの様子?」
「はい」
 アイラは憮然としたブレスをじ――っと見つめる。
 う〜んと考える彼女と表情を変えないブレスに、見ている皆からくすりと笑みがもれる。

「とても動揺して、顔をしかめてたんです」
「―――――――今以上に?」

 その言葉に全員がブレスを見る。すると、確かに彼はしかめっ面をしていて。
 思わず顔を見合わせ一斉に吹き出してしまった。

「そうです。今以上に」
「こんなカンジ」
 オルスが自分の顔で再現してみせ、さらに笑わせた。
 何がおかしいのだと表情で言っていたブレスも、次第に苦笑していた。








 ――突然バタバタと足音が駆け込んできた。


「アイラさまッ!」

「何事ですか。王女の前で」
「それもお疲れなんだから」

 飛び込んできたのは中年の男。常にアイラの傍にいるメイファはもちろん、 騎士たちもそれが誰であるかに気付いた。大臣補佐をしている者だ。 男は肩で息をしながら首を横に振る。
「アイラさまに申し上げます。国王陛下より小広間へ来られるようにとのことですッ」

「国王が……?」
「お父さまが呼んでいるのはわかったけど、何もそんなに慌てなくても……」

 もつれかけた足で必死になって走ってくる必要など、とアイラは言う。
 今だって息は乱れたままだし、顔色もよくない。そこまで急ぐなんて。
「重要なこと故、早急にお知らせせよとのご命令で」

 なんだか、嫌な予感が。

 なんとなく聞きたくないなと思いつつ、口を開く。
「何……?」
 男は真剣な面持ちで、ごくりと喉を鳴らす。

「ご婚約について」

「こ……!?」
「つい先程、正式に申し込まれたのです」
「は……」


 目の前で、自分に向けて言われたのにも関わらず、言葉が染み込むのに時間がかかった。

 メイファたちも互いに困惑した視線を交わす。





「はぁ――――――――――!?」












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