第17話 儀式を迎え
 成人の儀は、滞りなく進んだ。


 今回は現国王の末の子が受けるということで、各国の王族、またはそれに近しい者が参列。
 そのため常とは違う雰囲気に包まれていたが、流れは常と変わらずに。
 半年に一度のことなので、城下だけではそれほど人数は多くなく、いつも通り二時間ほどでそれは終わった。




「お疲れさまです、アイラさま」
 にこっと笑ったレイシアの声に、アイラはほっと息を吐いた。
 このアイラの自室には今、三人がいる。アイラとレイシア、メイファだ。ブレス、ルーク、オルスはいない。

 大物の客ばかりが城に来ているため、警備に出ている。
 何もかもが忙しく、前もってわかっていたことだが予想以上に人手が足りない。
 そのためアイラの侍女たちも手伝いに回り、アイラのことでメイファもいつも以上に働いている。彼女に関することを一人で任されたのだから。

「その言葉はまた後で言ってほしいわ。次の方が疲れるだろうから……」
 この後もう一時間ほどすれば、夕食も兼ねてのパーティが行われる。そのことに、いつもと違いアイラは緊張していた。
 今回は、これまでとは違う。成人後、初めてのパーティということになるのだ。
 考えただけで息がつまってしまう。いつものように皆がいてくれるのだけが救いだ。


「しっかり守ってよ、あたしの騎士さま?」









 ゆったりとした音楽に包まれた大広間は、前に主役として出たパーティと同様、いやそれ以上に華やかだった。 あれからまだ三ヶ月も経っていない。二ヶ月ほど前には兄の、ついこの間には姉の子の、誕生日もあった。

 現国王には九人もの子がいるため、その全ての誕生日を豪華に行っているわけではないが。
 いくら自分のためとはいえ、あまり派手にされると嬉しさも薄れる。
(お金の無駄ってもんよね。民が可哀想になってくるのよ)
 まあ他国への意地が大きいのだろうけれど。


 ……椅子に腰掛けため息を吐いたアイラの前に、一人の男が現れ礼を取る。機械的に。

「アイラ王女、お久しぶりです」
「ええ、お久しぶりです。またお会いできて光栄ですわ」

 立ち上がって自分も礼を取り、にっこり微笑みながらアイラは内心焦っていた。
(誰だっけ……? 覚えてないなんて気付かれたらマズイ、わよね……)

 ――銀の髪、青い瞳、左の目元にホクロ。

 何かつい最近見たような気もする。けれどわからない。向こうは"久しぶり"だと言っているし……。
 アイラの思考はそこで止まる。

「踊っていただけますか?」

「喜んで」
 差し出された手に自分の手を重ね、導かれるように中央に広く取られた空間へ。


 ――今、ここで、個人的な感情は必要ない。


 外交の悪化を招いてはならない。もう子供だからと笑って済ませてはもらえないのだから。
「ブレス?」
 ルークが眉を寄せながら名を呼ぶ。どこかいつもと違う様子の仲間。じっと一点を、アイラを見ていた。

「なんだ?」
 反応が返ったことにどこかほっとし、ルークは首を振った。
「いや。……心配なのはわかるけど、大丈夫だよ、きっと」

 主の心を、全てではないけれど理解しているから、心配でならない。それはまるで自分のことのように。 それは護衛として長く共にいた彼らにとって当たり前のことで。 最も長く傍にいるブレスにはやはりその気持ちが強くて。
 わかっている、とブレスは頷く。視線は曲に乗って踊る主の姿を。


「ブレスさま。オルスさまは……」
 戸惑うようなメイファの声に、ブレスとルークは目を向ける。少女は椅子から見上げている。

 ――オルスは。

 レイシアと二人は顔を見合わせる。言われるまで気にも留めなかったけれど。

「そういえば」
「気分悪いって出て行ってから」
「それっきり……?」

「大丈夫……なんでしょうか」
「……と、思うけど」

 いつだって他人とは違うペースで生きているやつだから。とはいえ、いつもとも違うような気も……。

 四人の目に近づいて来る人影が映る。

「あれ? どうしたの?」
 オルスの姿に幾つものため息がもれる。安堵と呆れが入り混じっている。
 やはり気にしすぎだったか。いつも通りの彼にそう思う。

「どこに行ってたんだ?」
「ちょっと出てくって、全然ちょっとじゃないじゃないか」
「あー、ゴメン」

 ゴメン。じゃないと思う。なんだこのマイペースさは。
 皆が苦笑する。


 それより、とオルスが口を開いた。






「アイラさまが婚約するって本当?」












<< back    next >>

NOVEL