男女問わず、16歳になった者が受ける儀式があった。少なくともこの近隣の国々では。
それを済ませた者は成人したとされ、職に就くことになる。
年に二回、10月と4月に行われるもの、中でも城下でのそれは、王の姿を直接目にする数少ない機会の一つであり、
王族が儀式を受ける場でもあることから、その時は他国の賓客を迎える、一大イベントであった。
「めんどくっさ〜いっ」
鏡台に向かったアイラがわめきながら突っ伏す。メイファは苦笑し、宥めながらドレスを用意する。
それは赤を基調とし、アクセントとして黒が用いられている、シンプルな物だ。
アイラはぶつぶつと言いながらもドレスを着る。その上から半透明の、軽いふわふわした生地で作られたものも。
そして、胸元には真っ白な薔薇。
「とても似合っていらっしゃいますよ、アイラさま」
「……ありがと」
鏡台の前に座った主の髪を、ホーリスが丁寧に梳かす。長く美しい髪が彼女の手を滑っていく。感嘆のため息が自然ともれる。
「アイラさまの髪、本当に綺麗ですよねぇ……」
メイファがくすりと微笑み、アイラは首を傾げる。
「ホーリスの髪だって素敵だと思うわ。ふわふわなんだもの」
いつもは団子のように一つにまとめているからよくわからないが、幾度か解いているのを見たことがある。
赤っぽい髪がふわりとしていて、とても可愛らしいのだ。
「あたし、羨ましいとさえ思ったこともあるのよ? ホーリスは美人さんだし」
続く褒め言葉にとどめの一言。美人だなどと王女の口から聞くとは。
みるみる頬が赤みを帯び、ホーリスは反論する。
「アイラさまが仰ると嫌味というか、そんな風に聞こえますよ」
「なんでよ」
「自覚がおありにならないのですか?」
「だから何が?」
本当にわからないようで、アイラは不機嫌そうな顔になる。
ホーリスとメイファは顔を見合わせ、二人同時にため息を吐く。
「アイラさまご自身がとてもお綺麗だからです」
決まっているじゃないですか、とばかりに言い切るホーリスに、それこそわからないという風にアイラは眉を寄せる。
「あたし自分が綺麗だなんて思ったことな――」
「「綺麗ですっ」」
はっきり言い切る二人に身を引きつつ、メイファまで、とアイラは思う。
「じゃ、じゃあメイファは?」
「もちろんお綺麗だと思います。ですがアイラさまと比べると可愛いの方が合うかと」
にっこりするホーリスに、今度はメイファが頬を染めた。
年齢以上に大人びて見える容姿なのは王家の血なのか。遠縁にしてはとてもよく似ているアイラとメイファだが、
メイファはまだ少し幼さが残っているかに見える。それは内面によるかもしれないが。
どうせだから言わせてもらいますが、とホーリスは続ける。
「アイラさまもメイファさまも、本当に自覚がなさしぎます。せっかくある長所なんですから、使わないと」
「使うって……?」
「――別に男性を堕とせとは言いませんが、好意を持たれる容姿なんです、自分に都合よく出来るはずでしょう?」
そんなことを言われても、とメイファは困り顔に。よくわからないけれどすごいな、とアイラは感心する。
「恋だってもっと上手く運べるはずなんですよ、お二人とも」
恋。メイファの頬に赤みが差し、アイラは首を傾げる。……ホーリスはがくっと肩を落とす。
(自覚なさすぎ。……いや、それ以前かも。大丈夫なのかなぁ……)
何故か突然言い聞かすかのようになってしまったが、言うホーリス自身も恋愛などは上手くない。
身寄りのなかった彼女は城でアイラに仕えるようになり、気に入られて五年以上、侍女として過ごしている。
今思えば、身寄りがないからこそ気に入られたのかもしれない。
王女自身は幸せに生まれ育ったが、肉親のいない者が周りに多い。
特に妹弟のようなメイファ、レイシアは親を失っている。だから、重ねたのかも、と。
かと言って同情するでもなく、主従の関係であるというのに対等であるかのように接す。そんな彼女が好きだ。
――この二人の少女を見ていると、やきもきしてしまう。
自分自身、恋人がいたことはあるが、いたという、ただそれだけ。
仕事中心でそれどころでないということもあったが、積極的に恋を出来なくて。
だから他人のことは言えないけれど、とホーリスは思う。主だからではなく、
自分を信頼してくれる彼女には幸せになってほしい。
心から愛する人と。それはもちろんメイファにも言えることで。
「しっかりしてくださいね。一生気付かなかったりしたら、もう本当に最悪なんですから」
自身の心がつかめている自分とメイファはまだマシなのかもしれない。
今も気になる人がいないではないけれど、自分のことは後回し。
まずは妹のようなこの二人のお姫さまが幸せになるのを見たいと思う。
「それから、気をつけてくださいね。成人となれば、変な男も寄ってくるかもしれませんから」
他人を知るより自分を知る方が難しいと聞いたことがある。遠くより、近くの方が案外わかりにくいとも。
そうかもしれない。けれど気付けば。思ってホーリスは微笑む。
「きっかけは、意外とその辺に転がっているかもしれませんね」
不思議そうに首を傾げるアイラ。
――幸せへの鍵は、心の中に。
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