第14話 お茶の時間
 暖かな日差しが降り注ぐ。
 開け放たれた窓からは風が吹き込むため暑いとは思わない。
 コールダリィは国の位置から湿気の多くない国だった。そのため陰にいさえすれば過ごしにくいということはなかった。



「ねぇメイファ。こういうのは?」
「とてもお似合いだと思いますよ」
「じゃあこれも候補ね。メイファはどうするの?」
「そうですね……」

 アイラとメイファは机の上にドレスのデザイン画を並べている。
 毎日違うドレスを求めるわけではないし、パーティごとに新たなドレスを作るわけではないけれど、 今度ばかりはいつもと違う。とても大切なものなのだ。

 ……侍女がせわしなく動いている。いつもはメイファと、ホーリスという名の馴染みの侍女との二人で十分なのだが、
 今このアイラの部屋には客人がいるのだ。部屋の主にはほとんど無視されているが。




「なんでまだいるんだ?」
「もうすぐ出て行ってやるよ」

 隣国イラテイトから戻ったはいいが、また居付くのではと思わせるシライザ。
 城へと戻った一行を、当たり前だが国王も王妃も何をしていたのかと怒り、はっきりと答えられないことにまた怒った。
 アイラは部屋から出ることを禁じられ、ブレスとルークは騎士団代表で罰として後輩騎士たちの面倒を見に行かされている。

 アイラにあとを任されていたホーリスも、彼らが戻るまでにいろいろと問いただされていたのだろう、 心労のためか少し痩せたのではと思う顔をして迎え、「ご無事で何よりです」との声も心なしかぐったりしているように聞こえた。
 ぼんやりとそんなことを思い返していたレイシアは、自分を呼ぶ声に我に返る。

「レイシア。この間、お前に聞こうとしたこと、覚えてるか?」
 いつの間にかすぐそばにシライザが座っていた。レイシアは考え、すぐに理解する。

「……ああ、あのこと。あれは――」
「あー、待った! 何かはわかってんだ」
 床にあぐらをかいたシライザは何か気まずげに頭を掻く。
「あれな、あんま使うな」

 何の話をしているのかオルスにはわからなかったが、珍しいシライザの様子に首を傾げる。
 次の言葉を待っているのか、レイシアは黙っている。
「お前もあれがどういうものか、わかってるだろうけど、それだけ言っときたくてな」

「……そっか。うん。でも俺は大丈夫だから」
 ――そんなに簡単には負けたりしないから。
 確証はない。けれどレイシアは微笑み、シライザは立ち上がった。
 出て行く前にブレスとルークにも声を掛けるからと言って姿を消した。二人に会った足で出て行くのだろう。

 本当によくわからない男だ。わからないけれど、嫌なやつではない。そんなに悪い人間でもなさそうだなと、レイシアは心から思う。


 ――魔導の力に近く身を置く者は、それに似て否なる力を持つことが稀にあるという。


 メイファを救出に行った時、届かぬ声をシライザに届けたのは、その力だった。
 魔導使いである少女を双子の姉に持ち、常に傍にいるレイシアにその力が宿ったのは必然であったのかもしれない。

 けれど、彼は決して魔導使いではない。決定的に異なる体の造りを、彼は知っている。
 力を使うには相当のエネルギーを消費することも。死さえ近づけるほどの――――――。



「レイシアさま? どうかされました?」
 覗き込む茶色のあたたかな瞳に、レイシアはゆっくりと瞬きをして笑った。

「なんでもないよ、ホーリス。そういえばそろそろお茶の時間?」
「ええ、そうです。ブレスさま、ルークさまもお越しになるんでしょう?」
「「もちろん」」
 レイシアとオルスの声が不意に重なり、ホーリスと三人で笑う。

 ……二人は今ここにはいない。とは言っても、同じ城内にはいて。
 だから休憩時間と丁度重なっているお茶の時間にはやってくる。
 それはいつものことで。誰が決めたわけでもないけれど、空いた時間はいつだって共に過ごす。
 嫌になるほど一緒に。いつからか、自然とそうなったから。


「お二人はいつもと同じでよろしいですか?」
「うん、お願い」
「オレはいつもより薄くして」

「って、人並みくらい?」
「ううん、知らない」
「………」

 他人より濃いコーヒーを飲むオルス。いつもより薄いとはどれくらいなのだろう。
 コーヒー自体あまり口にしないレイシアにはわからなかったが、本人の反応もわからない。

 ホーリスはクスリと笑う。
「承知いたしました」












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