第13話 夏の日に
 前もって決めていた集合場所である丘にシライザもやってきたのは、アイラたちよりわずか数分後のことだった。



「本当にそんなのが宝剣なわけ〜?」
 まだ言っている。アイラを見て皆に笑いがこぼれた。
 シライザは苦笑したまま、彼女の視線の先の短剣を指で回す。

 アイラが疑問に思うのも無理はない。宝剣ルビリオンは特別に美しいという物ではなかった。
 どこにでもあるような、装飾品の剣。宝石が散りばめられてはいるが、価値も重要性も、それほど大したことはなさそうだ。

「まぁ全員無事で何よりだ。……悪かったな、変なことさせて」
 知り合って間もないけれど、この男がそんな言葉を口にするのはとても奇妙な感じがして。
 焦ったり笑ったり、それぞれの反応を返した。

「あたしは結構楽しかったけど?」
「オレもー」
「やめろ、王女もオルスも……」
 うんざりしたようなブレスの声に、アイラはにっこりとする。……どこか目は笑っていない。

「ア・イ・ラ」
「―――――アイラ」
「よろしい」

 今度こそ本当ににっこり笑って、アイラはうなずく。



「シライザ。それ、どうするんですか?」
 先刻まで髪を束ねていた紐を手にしたメイファの問いに、シライザは一瞬考える。
「内緒、ってことにしとくか」

 ふっと笑い、短剣をより速く回転させて上に飛ばす。重力に従って落ちてきたところを挟むように両手を打つ。
 パチンと両手が合わさって、開くとそれは消え去っていた。
 どこにやったのか、これも魔導の力によるものなのかと目を丸くするアイラたちに、小さく笑って、また内緒と答えた。

 やっと気が落ち着いてきたのか、レイシアが呟く。
「でも良かった。本当に無事成功して」
 メイファが微笑み、ルークとオルスがそうだなと頷いた。

「だが城側の者としては不安が残る」
「ブレス。実は心配性なの〜?」
 クスクス笑うアイラと、顔をしかめるブレス。

 緑の草の上にいつものような光景。日差しが強い為、木陰に皆身を寄せている。
「アイラさま、ご存知なかったのですか? ブレスは結構色々と考える方なんですよ」
「ルーク」
 恨みがましいようなブレスの視線をさらりと流し、ルークは立ち上がる。


「帰るの?」
「残りたいなら構わないけど、オルス一人でにしてくれよ。アイラさまはもう戻らなければ」
「オレも帰るって。ルークさん」
 独特のトーンで答え、オルスはゆっくりと立ち上がる。

 すでに皆は立っていて、自国のものより湿気を含んだ風を体に受ける。……アイラの表情がふっと曇る。
「あの王子、幸せになれるといいのに」
「そうですね……」

 皆から自然に言葉が減り、さあああっと風の音が耳をかすめて流れて行く。
 静まる空気の中、シライザが口を開く。

「ああ、何、お前ら信じたんだ?」
「はい?」
「ははっ。お前らってホント人がいーのな」

 悪意は感じられないが、そんなことを言って笑うシライザをアイラは睨む。
「嘘だったってワケ!?」
「……さぁ?」









 コトンと何かが落ちるような、置かれるような音がして、青年はドアを開けた。

「シィ?」
 良く日の入る部屋のため、この季節では長い時間明りを点けずにいられる。
 彼はいつものように踏み入ると、中に誰の姿もないのを知って窓に寄った。

 外にも求める姿はなく、壁に背をもたせ、部屋の中を見回す。
 と、小さな机の上にあるいつもの写真立てに目がとまる。

 ―――夫婦、老夫婦に囲まれて微笑む二人の少年。

 懐かしむように笑みをもらす彼の目に、写真立てに隠れた見慣れない物が映った。
「シライザ……」
 それが何かを、彼は知っていた。だから誰がここにそれを置いたのかも。

 彼はため息混じりに優しく笑う。
「また行っちゃったのか。本当に勝手なやつ……」












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