第11話 侵入
 灰色がかった建物の集まり。それがこのイラテイト国の城だった。
 庭はなく、代わりにある古びた塔の牢獄。そこはもう使われなくなってから幾年も経っている。
 ……短い呟きの後に現れた光の球。ぼんやりとした明りの下に七つの人影。


「アイラ」
 足を滑らせブレスに腕を取られたアイラを中心に、オルス、メイファ、シライザ、 ルーク、レイシアが、シライザの魔導の力によって空間を移動し現れたのだ。

「大丈夫かよ、あんた」
 呆れたような声に平気だと声を上げ、アイラは辺りを見回す。

 割と質の良い部屋と鉄格子。――奇妙な光景。
 思わず、趣味悪っ、と口にしてしまうほど。
 実際に言ったのはオルス一人だったが、内心は皆同じだろうことは間違いない。

 少ない家具に積もった埃は厚く、その中には何の跡もない。
 ゆっくりと視線を巡らしていると、オルスが何か呟く。振り向いたアイラと目が合い、今度は聞こえるように繰り返す。
「ブレスさんが王女って呼ばないの、やっぱり変な感じ」
 くすりと笑いがこぼれる。メイファとレイシア、ルークだ。

 それは、アイラが言い出したこと。王女だなんて呼ばれ、もし聞かれたら、と。
 名で呼ばれたならばまだ言い訳も出来るだろう。――建前めいたところもあるのだが。
 名前で呼ばれたかった、なんて。事実、"王女"では誰だか分かりにくいのだ。王女である姉が何人いると思っているのか。

「そのうち慣れるわよ」
 少しだけ不機嫌そうに言ったアイラに、レイシアはまだくすくすと笑う。
「"さま"を付けないのはブレスさんらしいですけどね」

 と言うか、想像も出来ない。
 名で呼べと言ったアイラに、数瞬の間の後"アイラ"と口にした。
 もしかしたら"アイラさま"と言おうか迷ったのかもしれない。けれどやはりそれには彼自身違和感を覚えたのか。

 埃の積もった白い絨毯を踏みしめるよう、歩き出す。
 ドアのところまで先に着いていたシライザと共に外へ――






 城内は入り組んでいて、たまに迷いそうな感覚に捕らわれた。
 シライザは全てを把握しているかのように、迷いのない足取りで進んで行く。
 何かこの城は、中もやはり白っぽいイメージを与える。それも美しい純白ではなく。

 廊下を駆け抜けるたび、扉を開けるたび、何かの罠ではないかと思わないでもなかったが、 真剣なシライザがそうするわけはなく、また城を守るためのものならシライザなら前もって知り避けているだろうとも思った。

「警備多すぎ〜!」
 小声でぼやくアイラにシライザは笑う。これでも少ない道選んで通ってんだけど、と。

「ウチと同じくらいはいるはずですから。こんなものじゃないでしょう」
「侵入したことないからな」
「あってどうするんだよ……」
「盗賊も大変ねぇ」


 どうでもいいことを話しているうちに、大分奥までやってきた。が、そろそろアイラとメイファの息がきつくもなってきた。
 他の者たちは大丈夫そうだ。多少息が上がっているレイシアも、やはり騎士。まだ行ける。
 けれど、少女たちには辛い。まして、顔を隠すために仮面を付けているのだから。
「ねぇ。あの力は使わないの?」

「――ああ。それじゃあ意味がないんでね」
「て言うかアイラさま」
 汗ひとつ掻いている様子もなく、息も乱れていない平然としたオルスの声。

「それだったら協力いらない」

 冷静な言葉に、そうよねっ、とアイラは半ばやけになったような喚きに似た声を返す。
 喋れるくらいだからまだ余裕はあるようだ。

 ――右に前に前に左に右に。次々と現れる扉を廊下を部屋を抜ける。
 侍女が悲鳴を上げ、客と見られる貴族らしき者たちは顔をひきつらせ、何者だと叫ぶ。
 しかしほとんど、警備以外の者を見掛けるのは稀だった。

 ……シライザが走る。群がる兵士たちをルークとオルスが倒して行く。
 その間にアイラとメイファがシライザを追い、ブレスとレイシアはそれを守るように剣を振る。

 本当は、足手まといかもしれない。騎士たちもアイラとメイファを巻き込むのはどうしても避けたかったろう。 しかし二人はそれをよしとしなかった。
 そして、守らなければならないものがあるということは、時として人を強くする。 何よりも、それが守りたいものならば、尚のこと。


「いっぱいいる……」
「え?」
 扉を開ける。――と、そこには。

「――――――――冗談だろ?」
 一瞬部屋中かと思えるほどの警備兵。さすがのシライザもこれには焦っている様子。……というか、これほどだと誰だってひくだろう。
「ありえねぇっ―――ンの、暇人ッ!」

「ヒマジン??」
 そんなことを考えている場合ではないというのに――きっと口を突いて出ただけなのだろう言葉なのに―― オルスは首を傾げる。同時進行で戦い続けてもいるが。

「きゃっ」
 避けようとしてアイラが転ぶ。隙アリとばかりに振りかざされる刃。

 ――しかし、衝撃は彼女を襲いはしなかった。
 メイファの手にした剣によって叩き落されていたのだ。












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